📋 この記事でわかること
- ✔ スクワットは本当に高齢者に危険なのか、その答え
- ✔ 膝を痛める本当の原因と、負担のメカニズム
- ✔ 膝に不安がある人でも安全にできる正しいフォーム
- ✔ 「何回やればいいか」の目安と、やめるべきサイン

母にスクワットを勧めたいけど、「膝に悪いんじゃない?」って心配で…。母自身も「足腰は鍛えたいけど、膝が痛くなったら困る」と迷っているみたいなんです。

そのご不安、どちらももっともです。私は理学療法士として、訪問リハビリの現場で12年間、のべ12,000件以上のご自宅で高齢の方の運動指導をしてきましたが、その経験からはっきり言えるのは、危険なのはスクワットそのものではなく「間違ったやり方」だということです。裏を返せば、正しくやればスクワットは膝を守りながら足腰を鍛えられる運動になります。ひとつずつ見ていきましょう。
スクワットは高齢者に「危険」なのか?

まず、いちばん気になる「危険なのか」という問いに答えます。
答えははっきりしています。スクワットは、高齢者にとって危険な運動ではありません。むしろ、国が推奨する運動のひとつです。
国立長寿医療研究センターがまとめた運動介入の手引きでは、足腰の衰えを防ぐ「ロコモーショントレーニング(ロコトレ)」の代表として、下肢の筋力をつける「スクワット」とバランス能力をつける「片脚立ち」の2つが挙げられています。つまり、公的な機関がスクワットを高齢者向けの運動としてきちんと位置づけているのです。
出典:国立長寿医療研究センター「認知機能向上を目的とした運動介入の手引き」
では、なぜ「危険」という言葉がこれほど検索されるのでしょうか。理由はシンプルで、やり方を間違えると膝を痛めることがあるからです。ここが今回の記事のいちばん大事なポイントです。
スクワットが危険なのではなく、「間違ったスクワット」が危険。この違いを理解すれば、必要以上に怖がることはありません。次の章では、その「間違い」が具体的に膝へどう響くのかを見ていきます。
なぜ膝を痛めるのか——負担の正体

膝を痛める原因は、大きく分けて「深さ」と「回数」、そして「フォーム」の3つです。
膝の前側には、お皿の骨(膝蓋骨)と太ももの骨が向き合う「膝蓋大腿関節」という部分があります。整形外科の解説によれば、この部分にかかる圧縮力は、膝を曲げる角度が60〜90度あたりでもっとも高まるとされています。つまり、深くしゃがみ込むほど膝への圧力は増えていくということです。
さらに、しゃがむときに膝がつま先より大きく前へ出ると、膝のお皿にかかる圧力が急激に跳ね上がります。「深く」「膝が前に出る」——この2つが重なると、膝への負担は一気に大きくなるのです。
現場で見た「やりすぎ」の失敗例
📝 訪問現場より
以前、ご自宅で自主トレーニングとしてスクワットを指導した利用者さんがいらっしゃいました。とても真面目な方で、「せっかくやるなら」と熱心に取り組んでくださったのですが、しばらくして膝の痛みを訴えられました。
様子を確認すると、私がお伝えした深さよりもかなり深くしゃがみ込み、しかも回数も指定よりずっと多くこなしていたのです。ご本人にすれば「頑張ったぶんだけ効果が出る」という善意からの行動でした。ところが膝にとっては、深さと回数の負担が二重にのしかかり、痛みという形で悲鳴を上げてしまったわけです。
これはこの方に限った話ではありません。「良かれと思って多めに・深く」やってしまうのは、真面目な方ほど陥りやすい落とし穴です。頑張ること自体は素晴らしいのですが、膝に関しては「頑張り=正解」ではないのです。
👨⚕️ もくもくポイント
膝を痛める人の多くは「サボった人」ではなく「頑張りすぎた人」です。深く・多くやるほど効くと思いがちですが、膝にとっては逆。真面目な方ほど、意識して「ほどほど」で止めてください。
膝を守る安全なやり方(正しいフォーム)

では、膝を痛めない安全なスクワットとはどんなものでしょうか。ポイントを3つに絞ってお伝えします。
ポイント1:お尻を後ろに引く
いちばん大事なのがこれです。しゃがむとき、「膝を曲げる」のではなく「お尻を後ろに引く」意識を持ってください。椅子にゆっくり腰かけるようなイメージです。こうすると重心が自然と後ろに移り、膝がつま先より前に出すぎるのを防げます。膝への負担を減らす、いちばん簡単で効果的なコツです。
ポイント2:深くしゃがみすぎない
膝に不安がある方は、無理に深くしゃがむ必要はありません。整形外科の解説でも、膝痛がある人は浅い範囲でとどめたほうが膝への圧縮力が小さくなるとされています。太ももが床と平行になるまで下げる必要はなく、「軽く膝を曲げる」程度から始めて十分です。浅くても、正しく行えば筋肉にはしっかり効きます。
ポイント3:椅子や壁を使う
ふらつきが心配な方は、椅子の背もたれや壁に軽く手を添えて行いましょう。転倒の不安がなくなるだけで、安心して下半身に集中できます。さらに不安が強い方は、椅子から立ち上がって座る動作を繰り返す「椅子スクワット」から始めるのもおすすめです。これなら深さを自然に抑えられ、膝への負担も最小限になります。
膝とつま先の向きをそろえること、しゃがむときに膝が内側に入らないことも意識できると、さらに安全です。
もうひとつ、しゃがむときに息を止めないことも大切です。ぐっと力んで息を止めると、その間だけ血圧が上がりやすくなります。「下がるときに息を吸い、立ち上がるときに吐く」くらいのイメージで、自然な呼吸を続けながら行いましょう。
特に慎重にしたい方
特に、運動をしていない普段のときから膝に痛みがある方は、まず自己判断で始めないでください。関節そのものに何らかのトラブルが隠れていることがあり、その状態で負荷をかけると、かえって悪化させてしまう恐れがあります。この場合は、スクワットを始める前に一度、整形外科などの医師に膝の状態を診てもらいましょう。
また、いまは痛みがなくても、体力や膝に不安がある方は、いきなり立った姿勢での本格的なスクワットから始める必要はありません。まずは椅子からの立ち座りや、椅子に座ったまま足を伸ばす運動など、負担の軽いものから慣らしていくと安心です。慣れてきたら、少しずつ立った姿勢のスクワットへ移していきましょう。
👨⚕️ もくもくポイント
フォームで迷ったら、まず「お尻を後ろに引く」だけ意識すれば大丈夫です。椅子に腰かける動きをまねるだけで、膝への負担は自然と軽くなります。難しく考えず、この一点から始めましょう。
👉 あわせて読みたい
回数と頻度の目安——「多いほど良い」は間違い
先ほどの失敗例が示すように、回数を増やせば増やすほど良いというのは誤解です。
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、高齢者に対して筋力トレーニングを週2〜3日行うことを勧めています。毎日たくさんこなすのではなく、週に2〜3回、休息をはさみながら続けるのが基本です。
出典:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
回数の目安としては、まずは1セット5〜10回程度から。これを1〜2セット、無理のない範囲で行いましょう。物足りなく感じるかもしれませんが、大切なのは「一度にたくさん」ではなく「安全な量を長く続ける」ことです。
先ほどの利用者さんも、痛めた後に私が改めて正しい深さを指導し、あわせて「1日何回まで」と回数をはっきり決めてお伝えしたところ、痛みを出さずに続けられるようになりました。深さと回数、この2つに具体的な上限を設けることが、膝を守りながら続けるための鍵なのです。
👨⚕️ もくもくポイント
ご家族が見守る場合は、「1日◯回まで」と上限を紙に書いて貼っておくのがおすすめです。回数が決まっていれば、ご本人も安心して続けられ、やりすぎも防げます。
こんなサインが出たら中止——安全管理の基準
安全に続けるうえで、いちばん知っておいてほしいのが「やめるべきサイン」です。次のような症状が出たら、その日は中止してください。
⚠️ すぐに中止すべきサイン
- 膝や腰に、じんわりではなく「ズキッ」とする鋭い痛みが出たとき
- 運動後も痛みや腫れが続き、翌日まで残るとき
- 胸が苦しい、息が極端に切れる、めまいがするとき
- ふらついて転びそうになるとき
特に、運動中や運動後の膝の痛みは体からの明確な警告です。「もう少しだけ」と我慢して続けると、今回の失敗例のように悪化させてしまいます。痛みが出たら回数や深さを減らす、それでも続くようなら数日休む。この判断ができるかどうかで、安全性は大きく変わります。
不安な症状が続く場合は、自己判断せず、かかりつけの医師やケアマネジャーに相談してください。
👨⚕️ もくもくポイント
痛みは「もっとやれ」ではなく「今日はここまで」という体からの合図です。我慢して続けるより、一度休んで翌日に回すほうが、結果的に長く続けられます。
スクワットで得られる効果

ここまで安全面を中心にお話ししてきましたが、正しく続けたときの効果は、それだけの価値があります。
✅ スクワットで期待できること
- 椅子やトイレからの立ち座りが楽になる
- 歩行が安定し、歩幅が保ちやすくなる
- ふらつき・転倒の予防につながる
スクワットで鍛えられる太もも前側の筋肉(大腿四頭筋)やお尻の筋肉(大殿筋)は、立つ・歩く・階段を上るといった日常の動作を支える土台です。ここが衰えると、歩幅が狭くなり、転びやすくなります。逆に鍛えれば、これらの動作が安定し、転倒予防にもつながります。
現場でも、スクワットを続けた方が「トイレでの立ち座りが楽になった」「以前よりしっかり歩けるようになった」と話してくださることは少なくありません。太ももの筋肉は、体のなかでも大きく、日常生活への影響がとても大きい部位です。ここを維持できるかどうかが、自分の足で暮らし続けられるかの分かれ目になると言っても言いすぎではありません。
「もう年だから」とあきらめる必要はありません。健康長寿ネットによれば、平均年齢90歳の高齢者でも、レジスタンス運動によって筋肉量が増え、筋力が向上することが報告されています。筋肉は、何歳からでも応えてくれるのです。実際、歩幅を広げて歩く力を取り戻すには、ただ歩くだけでなく、こうして筋肉に負荷をかける運動が必要だとされています。
出典:健康長寿ネット(長寿科学振興財団)「レジスタンス運動の効果と方法」
足腰の衰え全般が気になる方は、こちらの記事「足腰を鍛えるには?衰えのサインと家でできるトレーニング」もあわせてご覧ください。スクワット以外の運動も含めて、無理なく続けられる方法を紹介しています。
👉 あわせて読みたい
せっかく鍛えるなら、タンパク質も忘れずに
スクワットで筋肉に刺激を入れても、その筋肉をつくる「材料」が足りなければ、なかなか筋肉は増えてくれません。その材料になるのがタンパク質です。運動と栄養は、いわば車の両輪です。
タンパク質は、肉・魚・卵・大豆製品・乳製品といった毎日の食事からとるのが基本です。まずはここをしっかり押さえるのが第一歩になります。ただ、高齢になると食が細くなり、必要な量を食事だけで満たしきれない方も少なくありません。実際、年齢を重ねると若い頃より多めのタンパク質が必要になるとも言われています。
「肉や魚をそんなに食べられない」「食事の量が減ってきた」——そんなときの補助的な選択肢のひとつが、プロテインです。あくまで食事で足りない分を補うためのもので、これを飲めば運動なしで筋肉がつく、というものではありません。スクワットなどの運動があってはじめて、材料が活きてきます。
なお、腎臓の働きに不安がある方などは、タンパク質のとり方について、あらかじめかかりつけの医師に相談しておくと安心です。
高齢者に必要なタンパク質の量や、プロテインを使うべきかどうかの判断については、「高齢者にプロテインは必要?親に飲ませる前の確認ポイントと腎臓の注意」でくわしく解説しています。あわせてご覧ください。
まとめ
スクワットは高齢者に危険——この不安に対する答えを、あらためて整理します。
🌱 まとめ
危険なのはスクワットそのものではなく、「深すぎる」「多すぎる」「フォームが崩れた」間違ったやり方です。逆に、お尻を後ろに引き、深くしゃがみすぎず、週2〜3回・無理のない回数で続ければ、スクワットは膝を守りながら足腰を鍛えられる、とても価値のある運動になります。
そして、膝への不安がどうしても拭えない方には、膝サポーターという選択肢もあります。「サポーターで膝が治る」わけではありませんが、膝まわりを軽く支えて安定感を高めることで、運動への心理的なハードルを下げ、続けやすくする助けにはなります。膝の不安で一歩を踏み出せずにいる方は、こうした補助も上手に活用してみてください。
膝サポーターの選び方や、「サポーターに頼ると筋力が落ちるのでは?」という不安については、「膝サポーターに頼ると筋力が落ちる?論文と12年の訪問現場から正直に答えます」でくわしく解説しています。
📚 参考文献
- 公益財団法人 長寿科学振興財団「健康長寿ネット:レジスタンス運動の効果と方法」
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/shintai-training/resistance.html - 国立長寿医療研究センター「認知機能向上を目的とした運動介入の手引き」(厚生労働科学研究費)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192121/201917002A_upload/201917002A0006.pdf - 足立慶友整形外科「スクワットで膝が痛い原因と対処法」
https://clinic.adachikeiyu.com/10067 - 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf
👉 あわせて読みたい







コメント