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📋 この記事でわかること
- ✔ 高齢の方に普通の腹筋運動(シットアップ)をさせてはいけない理由
- ✔ リハビリ現場が本当に狙っている「インナーマッスル」とは何か
- ✔ 起き上がり・腰痛・尿もれにつながる、安全な鍛え方

親が自分で起き上がるのがつらそうなんです。腹筋を鍛えればいいのかなと思って、上体起こしをやらせてみたんですが、これで合ってるんでしょうか…

その気持ち、よく分かります。でも“起き上がり”のためなら、普通の腹筋(上体起こし)はむしろ逆効果になることも。今日は、本当に鍛えるべき筋肉を一緒に見ていきましょう。
起き上がれない=お腹の筋肉が弱った、だから腹筋運動——とても自然な発想です。ご家族としては、少しでも親御さんに元気でいてほしい、自分のことは自分でできる状態を保ってほしい。その一心だと思いますし、運動を取り入れようという発想そのものは正解です。
ただ、ここで一つだけ知っておいてほしいことがあります。選ぶ運動を少し間違えると、せっかくの努力が空回りするどころか、腰や背骨を痛めてしまうこともある、ということです。とくに高齢の方が、よかれと思って普通の腹筋運動に取り組むのは、あまりおすすめできません。
私は訪問リハビリの現場で12年、これまで1万件以上のお宅にうかがってきました。その経験から断言できるのは、高齢の方に本当に必要なのは「上体起こしで割れた腹筋」ではない、ということです。読み終えるころには、「腹筋を鍛える」の意味がガラッと変わっているはずです。まずは、多くの方が思い描く”腹筋”のイメージから、ほどいていきましょう。
「腹筋=上体起こし」だと思っていませんか?
「腹筋運動」と聞いて、多くの方が思い浮かべるのは、あおむけに寝て上体をぐいっと起こす、いわゆる「上体起こし」ではないでしょうか。学校の体力テストでもおなじみの動きです。
たしかにあの動きは、お腹の表面にある腹直筋(いわゆるシックスパックの筋肉)を使います。でも、実は起き上がりや姿勢を支える力とは、少し違うところを鍛えているのです。
「割れた腹筋」は生活の役に立ちにくい
腹直筋は、体を前に曲げるときに働く筋肉です。見た目の引き締まりには関わりますが、じっと姿勢を保ったり、とっさにバランスを取ったりする場面では、実はそれほど主役になりません。
さらに言えば、通信販売などで見かける「巻くだけで腹筋が割れる」EMSベルトのような商品も、あくまで表面の腹直筋を刺激するもの。楽して割れる、という響きは魅力的ですが、高齢の方が本当に必要としている「暮らしを支える力」とは、狙いがずれています。
では、高齢者にとって本当に鍛えるべき「腹筋」とは何なのか。まずは、なぜ普通の腹筋運動が高齢の方に向かないのかから見ていきましょう。
高齢の親に”普通の腹筋”をさせてはいけない理由

結論から言うと、高齢の方に単純な上体起こしをすすめるのは、あまりおすすめできません。理由は大きく2つあります。
腰への負担が大きい
上体起こしは、背中を丸めながら体を起こす動きです。この「背中を丸める」動作が繰り返されると、腰の背骨のあいだにあるクッション(椎間板)に大きな負担がかかります。
体幹の研究では、上体起こしのような前屈み動作は腰の背骨(椎間板)への負担が大きく、より負担の少ない鍛え方のほうが安全とされています(体幹研究の第一人者、McGillらの報告より)。若い方なら耐えられても、組織が弱くなっている高齢の方には、負担が積み重なりやすいのです。
出典:Axler CD, McGill SM.(各種腹筋運動と腰椎への負荷)Med Sci Sports Exerc. 1997;29(6):804-811.
訪問先でも、「若い頃、自己流で腹筋(上体起こし)をやっていて腰を痛めた」という話を耳にすることがあります。良かれと思って始めた運動が、かえって体の負担になってしまう——とてももったいないことです。
骨がもろい方には骨折のリスクも
もう一つ見逃せないのが、背骨そのもののリスクです。
骨がもろくなった閉経後の女性を対象にした古典的な研究では、前屈み系の運動を続けたグループで、背骨の追加骨折が、体を反らす伸展系の運動グループよりも大幅に多かったと報告されています(Mayo Clinicの研究より)。前かがみの姿勢は、背骨の前側に圧力を集中させてしまうのです。
出典:Sinaki M, Mikkelsen BA.(閉経後骨粗鬆症・屈曲運動と伸展運動の比較)Arch Phys Med Rehabil. 1984;65(10):593-596.
もちろん、すべての高齢者に骨粗しょう症があるわけではありません。ただ、骨が弱くなっている方や、その心配がある方にとって、繰り返しの前屈み運動はリスクになりうる。だからこそ、現場では安易に上体起こしをすすめないのです。
とはいえ、上体起こしが誰にとっても悪いわけではありません。骨や腰に問題のない、体力のある若い世代なら、普通の腹筋運動が問題になることは多くありません。避けたほうがよいのは、高齢の方、骨が弱くなっている・その心配がある方、慢性的な腰痛がある方、そして背中が丸くなってきた(円背)方です。ご自身やご家族が当てはまるなら、これから紹介する体にやさしい方法に切り替えるのが安全です。
⚠️ こんな方は“普通の腹筋”は避けて
- 高齢の方
- 骨が弱くなっている・その心配がある方
- 慢性的な腰痛がある方
- 背中が丸くなってきた(円背)方
👨⚕️ もくもくポイント
「腹筋を鍛えたい」という気持ちそのものは、とても前向きで大切なものです。否定したいわけではありません。ただ、その入り口が上体起こしだと、高齢の方の場合はリスクが先に立ってしまう。方向を少し変えるだけで、同じ「鍛えたい」が安全な結果につながります。
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リハビリ現場で本当に狙うのは腹直筋じゃない

では、私たちリハビリ職が高齢の方の「腹筋」で狙っているのは、どこなのか。
答えは、体の深いところにあるインナーマッスル——腹横筋・腹斜筋・骨盤底筋です。これらはお腹まわりを内側からぐるりと囲む、天然のコルセットのような存在です。
そして年齢を重ねると、とくにこうした深層の筋肉は、日常で意識して使う機会が少ないぶん、先に衰えやすいことがわかっています。
表面の腹直筋が「動かすための筋肉」だとすれば、インナーは「支えるための筋肉」。姿勢を保つ、バランスを取る、起き上がる、といった日常のあらゆる動作の土台になっています。目立たないけれど、いちばん働き者。それがインナーマッスルなのです。
天然のコルセット「腹横筋」
腹横筋は、お腹のいちばん深い層にある筋肉です。手足を動かすほんの一瞬前に、無意識に働いて背骨を安定させる——そんな役割を持っています。
腰痛のある方を調べた研究では、この腹横筋が働くタイミングが遅れることが報告されています(Hodgesらの研究より)。つまり、表面の腹直筋がいくら立派でも、この深層のスイッチがうまく入らなければ、体はぐらついてしまうのです。
出典:Hodges PW, Richardson CA.(腰痛と腹横筋の収縮タイミング)Spine. 1996;21(22):2640-2650.
体をひねる動きを支える「腹斜筋」
腹横筋とあわせて大切なのが、脇腹にある腹斜筋です。この筋肉は、体をひねったり、横に安定させたりするときに働きます。
実は、寝た状態から起き上がるとき、人は真上にまっすぐ起きるのではなく、いったん体を横に向けてから起き上がります。この「ひねって起きる」動作を支えているのが腹斜筋です。ここが使えていないと、真上に力任せで起きようとして、うまくいかなくなるのです。
排尿や姿勢を支える「骨盤底筋」
もう一つ大切なのが、骨盤の底でハンモックのように内臓を支える骨盤底筋です。この筋肉は尿もれの予防に深く関わっています。
📝 訪問現場より
冒頭でお話しした「起き上がれない」ご相談の方も、実は腹直筋ではなく、こうしたインナーの働きと、体をひねって起きる動作の連動に課題がありました。腹筋を鍛えるより先に、この一連の流れを整えることで、少しずつ自分で起き上がれるようになっていったのです。
👨⚕️ もくもくポイント
現場で動作を見ていると、「起き上がれない」原因が腹直筋にあることは、むしろ少数派です。多くは、体をひねる動きや、深い筋肉のタイミングの問題。だからこそ、闇雲に腹筋運動を増やすより、まず「どこでつまずいているのか」を見極めることが近道になります。
インナーを鍛えると何が変わる?
インナーマッスルを鍛えると、見た目以上に生活そのものが変わります。具体的なメリットを挙げてみましょう。
✅ インナーを鍛えると得られること
- 起き上がり・寝返りがラクになる
- 姿勢が安定し、腰痛の予防に
- 尿もれの改善・予防に
- 下腹がすっきり(ぽっこりお腹対策)
なかでも大きいのが、起き上がりや寝返りのラクさです。ベッドから自分で起きられるかどうかは、在宅生活を続けられるかの大きな分かれ目。インナーが働くと少ない力で効率よく体を動かせ、姿勢も安定して腰への負担も減ります。
そして見逃せないのが、尿もれの改善・予防です。骨盤底筋のトレーニングは、女性の尿もれに対する第一選択の運動療法として、国際的なレビューでも支持されています(Cochraneレビューより)。研究は女性を中心に進んでいますが、骨盤底筋は男性の尿もれにも関わり、鍛える意味があります。「最近トイレが近い」「くしゃみで漏れる」といった悩みにも、地道な効果が期待できます。
さらに、腹横筋がしっかり働けば下腹も引き締まり、ぽっこりお腹の対策にもなります。
見た目の割れた腹筋ではなく、こうした「暮らしを支える力」こそ、高齢の方に本当に必要な腹筋なのです。
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安全に鍛える方法

ここからは、実際にご家庭でできる、安全なインナーの鍛え方を紹介します。難しい器具は要りません。
🏠 家でできる4つのインナー運動
- ① ドローイン(お腹をへこませる)
- ② 骨盤底筋の運動
- ③ 膝倒し(腹斜筋のひねり)
- ④ 寝返り(起き上がりの土台)
まずは「ドローイン」から
いちばん基本になるのがドローインです。あおむけに寝て、ひざを立てます。息を吐きながら、おへそを背中に近づけるようにお腹をへこませ、そのまま10秒キープ。これを数回繰り返すだけです。
ポイントは、背中を丸めないこと。腰の下の自然なカーブを保ったまま、お腹の奥だけを働かせる意識が大切です。呼吸は止めず、テレビを見ながらでもかまいません。
慣れてきたら「骨盤底筋の運動」も
ドローインに慣れたら、骨盤底筋の運動も加えましょう。あおむけのまま、尿を途中で止めるようなイメージで、下腹部と股のあいだをキュッと締めて数秒キープ。力を抜いて、また締める。これを繰り返します。
⚠️ 「尿を止める」のは一度きりのイメージだけ
これは筋肉の位置を感じるためのたとえです。実際のトイレで毎回尿を止める練習は、かえって逆効果になるので避けてください。
📝 訪問現場より
以前、尿もれとぽっこりお腹に悩むご利用者さんに、この2つを毎日の習慣として取り入れてもらったところ、数か月でトイレの不安がやわらいだと喜ばれたことがあります。地味に見えても、続けることでしっかり応えてくれる運動です。
体をひねって「腹斜筋」を動かす
脇腹の腹斜筋には、体をひねる動きが効果的です。あおむけでひざを立て、そろえた両ひざを、息を吐きながらゆっくり左右に倒します。倒しきらず、お腹の脇に軽く力が入るところで止め、また戻す。左右10回ずつが目安です。肩は床につけたまま、腰をひねりすぎないようにゆっくり行いましょう。この「ひねる感覚」が、次に紹介する寝返りや起き上がりの土台になります。
起き上がりが不安な方は「寝返り」から
膝倒しに慣れてきたら、そのまま肩まで回して横を向く「寝返り」につなげてみましょう。自分で起き上がるのがつらい方は、いきなり起き上がろうとせず、この寝返りで体をひねる感覚を取り戻すことから始めるのがおすすめです。それだけでも、起き上がりはずいぶんラクになります。
⚠️ 始める前に
持病のある方や、腰・背中に痛みが出る場合は、無理をせず、運動を始める前にかかりつけの医師に相談してください。
どのくらい続ければいい?
目安は、無理のない範囲で週3〜4回、まずは1〜2か月です。高齢の女性を対象にした研究では、体幹(腹横筋)のトレーニングを週4回・4週間続けたところ、お腹の奥の筋肉の厚みが増したと報告されています(高齢女性を対象にした研究より)。骨盤底筋による尿もれの改善は、週3回以上を6〜12週間続けるのが目安とされ、しっかり実感するには3か月ほどかかることもあります(国際的なレビューより)。すぐに変化がなくても、焦らず続けることが何よりの近道です。
出典:Ge L, et al.(高齢女性の体幹トレーニングと腹横筋の厚み)Eur Rev Aging Phys Act. 2022;19:10.
出典:García-Sánchez E, et al.(骨盤底筋トレーニングの至適な頻度・期間)Int J Environ Res Public Health. 2019;16(22):4358.
👨⚕️ もくもくポイント
どの運動も、派手さはありません。でも訪問の現場で結果を出してきたのは、いつもこういう地味な積み重ねでした。1日10秒でも、続けることが何よりの力になります。うまくできているか不安なときは、担当のリハビリ職やケアマネジャーに一度見てもらうと安心です。
まとめ:割れた腹筋より「暮らしを支える体幹」を
🌱 この記事のまとめ
- 高齢者に必要なのは“割れた腹筋”ではなく、暮らしを支えるインナーマッスル
- 普通の腹筋(上体起こし)は腰・背骨に負担がかかりやすい
- ドローインなど背骨にやさしい運動を、週3〜4回・1〜2か月から
高齢の方にとって大切なのは、上体起こしで鍛える割れた腹直筋ではなく、起き上がり・姿勢・腰痛予防・尿もれ予防につながるインナーマッスルです。
普通の腹筋運動は、腰や背骨に負担をかけてしまうこともあります。まずはドローインのような、背骨にやさしい方法から始めてみてください。
体幹づくりは、足腰の運動とあわせて取り組むと、より効果を実感しやすくなります。スクワットなど下半身のトレーニングと組み合わせれば、立つ・歩く・起き上がるという一連の動作が、全体として安定していきます。
そして、運動の効果を支えるのが日々の栄養です。とくに高齢の方は、知らないうちにタンパク質が不足しがち。筋肉は運動と栄養の両輪で育ちます。食事だけで足りないときは、ULTORAのような溶けやすいプロテインで手軽に補うのも一つの方法です。サプリで腹筋がつくわけではありませんが、コツコツ続ける運動の、心強い後押しになってくれます。
ULTORAは水にも溶けやすく、運動後や食事に混ぜて手軽に続けられます。「最近、親の食が細くなってきた」という方の、タンパク質補給の選択肢としても。
無理なく、今日の10秒から。その積み重ねが、親御さんの——そしてあなた自身の——これからの暮らしを支えていきます。
👨⚕️ もくもくポイント
運動と栄養は、どちらか一方では効果が半減します。せっかく体を動かすなら、材料となるタンパク質も意識してあげてください。無理なく、今日できることから。その小さな一歩が、親御さんの「自分でできる」を長く支えていきます。
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📚 参考文献
- Axler CD, McGill SM. Low back loads over a variety of abdominal exercises: searching for the safest abdominal challenge. Med Sci Sports Exerc. 1997;29(6):804-811. PubMed
- Sinaki M, Mikkelsen BA. Postmenopausal spinal osteoporosis: flexion versus extension exercises. Arch Phys Med Rehabil. 1984;65(10):593-596. PubMed
- Hodges PW, Richardson CA. Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain: a motor control evaluation of transversus abdominis. Spine. 1996;21(22):2640-2650. PubMed
- Dumoulin C, Cacciari LP, Hay-Smith EJC. Pelvic floor muscle training versus no treatment, or inactive control treatments, for urinary incontinence in women. Cochrane Database Syst Rev. 2018;(10):CD005654. Cochrane Library
- Ge L, Huang H, Yu Q, et al. Effects of core stability training on older women with low back pain: a randomized controlled trial. Eur Rev Aging Phys Act. 2022;19:10. PMC
- García-Sánchez E, Ávila-Gandía V, López-Román J, et al. What Pelvic Floor Muscle Training Load is Optimal in Minimizing Urine Loss in Women with Stress Urinary Incontinence? A Systematic Review and Meta-Analysis. Int J Environ Res Public Health. 2019;16(22):4358. PMC
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。持病のある方や体に不安のある方は、運動を始める前に医師やリハビリ専門職にご相談ください。







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