📋 この記事でわかること
- ✔ 脳梗塞の退院後、自宅でできるリハビリ(足・手・バランス)
- ✔ 自主リハビリだけで進めるときの落とし穴
- ✔ 訪問リハビリを入れた方がいいケースの判断基準

父が脳梗塞で退院してきたんですが、リハビリって家でどうすればいいんでしょう…。病院では教わったけど、このまま自分たちだけで続けて大丈夫なのか不安で

その不安、すごくよくわかります。退院はゴールじゃなくてスタート。むしろ”自分たちだけで頑張ろう”とした結果、あとで苦労されるご家族を現場で何度も見てきました
脳梗塞で入院していた親が退院してくる。ホッとするのも束の間、多くのご家族が次にぶつかるのが「自宅でのリハビリ、どうすればいいの?」という壁です。
私は訪問リハビリ専門の理学療法士として12年、これまで1万件以上のお宅にうかがってきました。その経験から断言できるのは、退院時の状態は”完成形”ではなく”通過点”だということ。そして、自宅での過ごし方しだいで、その後の回復は大きく変わります。
この記事では、自宅でできるリハビリの具体例から、家族だけで進めるときの落とし穴、そして「訪問リハビリを入れた方がいいケース」の見極め方まで、現場の実例を交えてお伝えします。
脳梗塞の退院後、自宅でできるリハビリ

脳梗塞の後遺症は人によってさまざまですが、自宅でできるリハビリには共通して大切なポイントがあります。それは「特別な器具がなくても、毎日の生活動作そのものがリハビリになる」ということ。ここでは下肢・上肢・バランスの3つに分けて、ご家庭で取り組みやすいものを紹介します。
※麻痺の程度や血圧の状態によっては注意が必要な動作もあります。必ず主治医や担当のリハビリスタッフに確認してから始めてください。
足のリハビリ(立つ・歩く力を保つ)
退院後にご家族から一番多く相談されるのが、この「足」です。歩く力は使わないとすぐに落ちてしまうため、優先度の高い部分です。
✅ 足のリハビリ(3種目)
- 椅子からの立ち座り:テーブルや手すりに手を添え、ゆっくり立つ・座るをくり返す。太ももとお尻の筋肉を使う、もっとも手軽な筋トレです。
- 足踏み:椅子に座ったまま、または手すりにつかまって、その場で足踏み。麻痺側の足を意識して持ち上げます。
- かかと上げ・つま先上げ:座ったままでもOK。ふくらはぎとすねを動かし、歩行やむくみ予防につながります。
脳卒中治療ガイドラインでも、在宅で生活する生活期の患者に対して、歩行機能やADL(日常生活動作)の向上のために歩行訓練や下肢筋力増強訓練を行うことが勧められています(理学療法科学37巻より)。「歩くために、まず立つ・支える筋肉から」が基本です。
出典:脳卒中治療ガイドライン2021の動向・総説(理学療法科学 37巻1号, J-STAGE)
現場でまず勧めるのが、この椅子からの立ち座りです。地味に見えますが、体への効果はかなり大きい。片麻痺の方は麻痺側の足に体重をかけにくいのですが、意識して体重を乗せるようにすることが大切です。
手・指のリハビリ(動かす機会を作る)
手や指は「使わない時間」が長くなるほど動かしにくくなります。完璧な動作を目指すより、生活の中で麻痺側の手に役割を持たせることが大切です。
✅ 手・指のリハビリ(3種目)
- 物をつかむ・離す:タオルやスポンジを握る、離すをくり返す。
- テーブルの上で手を滑らせる:腕全体を前後・左右に動かし、肩や肘の動きを保つ。
- 両手を使う動作:ペットボトルを両手で持つ、洗濯物をたたむなど、日常動作に組み込む。
片麻痺の方に現場で一番伝えるのは、麻痺のある手を意識して使い続けること。ゆっくりでも、時間がかかっても、やりにくくても、使わないよりずっといい。両手を使う動作はその意識を日常に組み込む、最もシンプルな方法です。
バランス・日常動作(転ばない体を作る)
在宅生活で怖いのが転倒です。バランス能力は、専用の運動よりも「安全な範囲での生活動作」で保たれます。
✅ バランス・日常動作(4種目)
- 立位保持:手すりや家具につかまり、まっすぐ立つ時間を少しずつ伸ばす。
- 片足立ち:手すりや壁につかまりながら、麻痺のない側の足を少し浮かせてバランスをとる。転倒リスクがあるため、必ず手すりや壁などのつかまるものを使って行うこと。
- 方向転換の練習:振り向く、向きを変える動作はゆっくり、一度足を止めてから。
- 生活動作そのものを丁寧に:トイレへの移動、着替えなど、毎日の動作こそ最高のリハビリです。
これらの運動は、1セット10回を目安に、午前と午後の1日2セット行うのが理想です。まずは午前の1セットから始めて、慣れてきたら午後も加えていくとよいでしょう。
⚠️ リハビリを行う際の注意点
血圧の高い日はリハビリをお休みしてください。脳梗塞後は血圧が不安定になりやすいため、毎朝の血圧測定を習慣にしておくと安心です。また、痛みが出た場合は無理をせず、その日は量を減らすか中止してください。「少し物足りないくらい」が安全に続けるコツです。
家族の関わり方として、現場で一番効果があると感じるのは「一緒にやること」です。「やっておいて」ではなく「一緒にやろう」のひと言で、本人のモチベーションが大きく変わります。リハビリを孤独にさせないことが、家族にできる一番のサポートだと思っています。
ただし、これらはあくまで「自宅でできる基本」です。次の章では、こうした自主リハビリを家族だけで続けるときに見落としがちな落とし穴についてお伝えします。
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自主リハビリの落とし穴|”自分でできるつもり”が一番危ない

前章のリハビリを「家族だけで続けていけば大丈夫」と思われるかもしれません。でも、ここに大きな落とし穴があります。退院後にご家族が見落としがちな3つのポイントを、現場の視点からお伝えします。
「病院でできた」と「自宅でできる」は違う
実は、病院のリハビリ室でできていた動作が、自宅では同じようにできないことがよくあります。
研究でも、病院の限られた環境での潜在的な能力(できるADL)と、実際の生活の中で行っている活動(しているADL)には差が生じることが指摘されています(神戸学院大学紀要より)。手すりのある訓練室では歩けても、段差や狭い廊下のある自宅では勝手が違う。この「ギャップ」を埋めるのが、本来の在宅リハビリなのです。
出典:回復期脳卒中患者の「できるADL」と「しているADL」の格差(神戸学院大学総合リハビリテーション学部紀要)
👨⚕️ もくもくポイント
病院でできた動作が、自宅では同じようにできないのはよくあること。だからこそ“自宅で”の練習が大事なんです。
退院前の指導が、生活に反映されないことも多い
退院時には、病院のリハビリスタッフが自宅を訪問し、手すりの位置や生活動線をアドバイスする「退院前訪問指導」が行われることがあります。とてもありがたい仕組みですが、実際には「指導されたとおりに生活できない」ケースも少なくありません。
たとえば「2階は危ないので、当面はリビングにベッドを」という提案。安全のためには正しい判断ですが、それが”そのまま固定”されてしまうと、本来戻せたはずの生活まで縮こまってしまうことがあります。
自己流リハビリが続かない・正しくできない
そしてもっとも怖いのが、「病院で教わったから、自分でできる」と思い込んでしまうことです。
📝 訪問現場より
以前、退院時に病院から訪問リハビリを勧められたものの、ご本人が「病院で教わった運動は自分でできるから」と断られた方がいました。麻痺はありましたが、その時点では拘縮(関節が固まって動かなくなること)まではいっていませんでした。ところが数年後、私のもとに訪問リハビリの依頼が来たときには、関節がかなり固まり、リハビリでもどうにもできないほど進んでしまっていました。後でわかったのは、教わった運動が「ちゃんと続けられていなかった」「正しくできていなかった」ということ。
自己流の落とし穴は、できているつもりで実は不十分でも、本人も家族も気づきにくいという点にあります。気づいたときには取り返しがつかない——これが在宅で一番避けたいパターンです。
👨⚕️ もくもくポイント
自己流リハビリの一番の落とし穴は、“できているつもり”で気づけないこと。第三者の目が入ると安心です。
では、どんなときに専門家を入れるべきなのか。次章で、訪問リハビリが入って実際に変わった例とあわせてお伝えします。
👉 あわせて読みたい
訪問リハビリを入れた方がいいケースの判断基準

「うちは訪問リハビリを入れた方がいいの?それとも家族だけで大丈夫?」——これは多くのご家族が迷うところです。まずは、実際に入って大きく変わった方の例をご紹介します。
訪問現場からのエピソード|車椅子の生活から、元の寝室へ
📝 訪問現場より
片麻痺で退院され、当初はリビングにベッドを置き、移動は車椅子という方がいました。退院時の状態だけ見れば「この生活がずっと続く」と思えるかもしれません。でも訪問リハビリを続ける中で、一つずつ目標を立てていきました。まずは車椅子を返すこと。次に2階へ上がる練習。それがクリアできたらベッドを返却し、最終的には元の2階の寝室で眠れるようになったのです。
ご本人は最初、とても消極的でした。それでも小さな目標を一つずつクリアしていくうちに変わっていき、今では「リビングで寝ていたなんて信じられない」とおっしゃっています。退院時の状態は、決してゴールではありません。適切な専門家が関われば、”戻せる生活”は思っているより多い——これが現場で何度も実感してきたことです。
👨⚕️ もくもくポイント
退院時の状態はゴールじゃなく通過点。今できないことが、ずっとできないとは限りません。
こんなときは訪問リハビリを検討してほしい
では、具体的にどんなケースで検討すべきか。現場の経験から、目安をまとめます。
✅ こんなときは訪問リハビリを検討してほしい
- 退院後、自宅での動作が病院のときより明らかにできなくなっている
- 家族だけのリハビリが続かない、何をすればいいか分からなくなってきた
- 麻痺側の手足が、退院時より動かしにくくなってきた気がする
- 本人がリハビリに消極的で、家族だけでは前に進められない
- 転倒が増えた、または転びそうで怖くて動けない
- 「この生活がずっと続くのかな」と、家族が先行きに不安を感じている
👨⚕️ もくもくポイント
迷ったら“困ってから”ではなく“早めに”。これが後悔しないコツです。
一つでも当てはまるなら、一度専門家に入ってもらう価値があります。脳卒中のリハビリは、維持期(生活期)であっても、訪問リハビリや自主訓練の指導・家族指導を継続することが効果的だと学会のレビューでも報告されています(脳卒中誌46巻より)。
出典:脳卒中の維持期リハビリテーションの効果に関するナラティブレビュー(脳卒中 46巻1号, J-STAGE)
特に退院直後の不安定な時期は、転倒やADLの低下が起こりやすいタイミング。この時期に専門家が関わることの効果も研究で示されています(地域リハビリテーション誌より)。「困ってから」ではなく「迷ったら早めに」が、後悔しないコツです。
出典:海津陽一ら「生活混乱期における訪問リハビリテーションの役割と効果」地域リハビリテーション 15巻2号 117-122, 2020
なお、「訪問リハビリって具体的にどういう仕組み?」「どうやって申し込むの?」という制度面については、別の記事でくわしく解説しています。あわせて読んでみてください。
また、片麻痺があると歩行だけでなく靴選びも自己流になりがちです。装具の有無で選び方が変わるので、こちらもあわせて確認しておくと安心です。片麻痺の靴の選び方|装具のタイプ別にわかる、失敗しない選び分け
まとめ|退院時の状態は”通過点”。迷ったら早めに専門家を
脳梗塞で退院した親のリハビリを、どう支えればいいか。最後に大切なポイントを振り返ります。
📝 まとめ
- ✅ 自宅でできるリハビリの基本は、足・手・バランス。特別な器具より「毎日の生活動作」がリハビリになる
- ✅ ただし「病院でできた」と「自宅でできる」は違う。自己流リハビリは、できているつもりで不十分なことも多い
- ✅ 退院時の状態はゴールではなく通過点。適切な専門家が関われば、戻せる生活は思っているより多い
- ✅ 迷ったら「困ってから」ではなく「早めに」。特に退院直後の不安定な時期こそ、専門家が入る価値がある
退院は、ご家族にとって大きな安心であると同時に、新しい不安のスタートでもあります。でも、一人で、家族だけで抱え込む必要はありません。
私が現場で何度も見てきたのは、「あのとき専門家に入ってもらってよかった」という声と、「もっと早く頼ればよかった」という後悔の両方です。どうか、迷ったときは早めに周りを頼ってください。それが、ご本人にとってもご家族にとっても、一番無理のない道だと思います。
👉 あわせて読みたい
・脳卒中の維持期リハビリテーションの効果に関するナラティブレビュー(脳卒中 46巻1号, J-STAGE)
・脳卒中治療ガイドライン2021の動向・総説(理学療法科学 37巻1号, J-STAGE)
・回復期脳卒中患者の「できるADL」と「しているADL」の格差(神戸学院大学総合リハビリテーション学部紀要)
・海津陽一ら「生活混乱期における訪問リハビリテーションの役割と効果」地域リハビリテーション 15巻2号 117-122, 2020


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