📋 この記事でわかること
- ✔ アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは何か、わかりやすく理解できる
- ✔ 親と家族の間で治療方針のズレが起きる理由がわかる
- ✔ 家族でACPの話し合いを始めるための具体的なきっかけがわかる
- ✔ 後悔しない看取りのために今からできることがわかる

もし親が食べられなくなったら、どうすればいいんでしょう…延命治療とか、考えたことなくて

実はその時になって初めて決めようとすると、家族みんなが混乱してしまうことが多いんです。だからこそ、元気なうちに話し合っておくことがとても大切なんですよ
「もしもの時、親にどんな治療をしてあげればいいのか」―介護に直面した家族の多くが、突然この問いを突きつけられます。でも実は、その答えは親自身がすでに持っていることがほとんどです。大切なのは、元気なうちに家族で話し合い、お互いの気持ちを知っておくこと。それを助けてくれる考え方が、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)です。
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは何か

ACPの定義と「人生会議」という愛称
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは、もしもの時のために、自分が望む医療やケアについて前もって考え、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取り組みのことです。厚生労働省のガイドライン(「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」)でも、この考え方が正式に位置づけられています。
出典:厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
2018年には厚生労働省がACPの愛称を一般公募し、1,073件の応募の中から「人生会議」という愛称が選ばれました。また、11月30日(1130で「いい看取り・看取られ」の語呂合わせ)が「人生会議の日」として制定されています(厚生労働省より)。
「人生会議」という言葉の方が、医療用語に馴染みのない家族にとっては親しみやすいかもしれません。
👨⚕️ もくもくポイント
「人生会議」という言葉、実は2018年に厚生労働省が一般公募で決めた愛称です。難しい医療用語より、まず「人生会議」という言葉から家族に伝えてみましょう。
なぜ今ACPが注目されているのか
ACPが注目されている背景には、ある重要な事実があります。厚生労働省の意識調査によると、命の危険が迫った状態になると、約70%の方が自分で医療やケアについて意思決定できなくなると言われています(厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」平成30年より)。
出典:厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」平成30年3月
つまり、「その時になってから決めよう」と思っていても、実際には本人が決められない状態になっている可能性が高いのです。だからこそ、元気なうちに家族で話し合っておくことが、本人の意思を守ることに直結します。
「その時」は突然やってくる〜現場で見てきたリアル〜

食べられなくなった時、家族は何を決めなければならないか
訪問リハビリの現場で12年、12,000件以上の在宅訪問を重ねてきた中で、もっとも多く立ち会ってきた場面のひとつが「食べられなくなった時の治療方針の決断」です。
加齢とともに飲み込む力(嚥下機能)が低下してくると、食事の形態をゼリーやミキサー食に変える必要が出てきます。そしてある日、誤嚥性肺炎や窒息のリスクが高まり、病院から「今後の治療方針を決めてください」と突然告げられる場面がやってきます。
胃ろうをつくるか。点滴だけにするか。自宅で自然な最期を迎えるか。
家族はその場で、人生を左右する決断を迫られることになります。
親と子の治療方針のズレはなぜ起きるのか
実際の現場でよく見てきたのが、親と子の間にある「治療方針のズレ」です。
親本人は「ご飯が食べられなくなったら、無理に延命はしなくていい」と思っていた。でも子どもは「少しでも長く生きていてほしい」と思っていた。このようなギャップは、決して珍しいことではありません。
📝 訪問現場より
訪問リハビリで関わっていた利用者さんのご家族のケースです。本人は以前から「食べられなくなったら自然に逝きたい」という気持ちを持っていました。しかし離れて暮らす息子さんたちはそれを知らず、入院をきっかけに「とにかく生きていてほしい」と延命を希望されました。
お互いの気持ちはどちらも本物。でも事前に話し合いができていなかったことで、家族全員が深く迷い、苦しむことになりました。
特に離れて暮らしている家族の場合、普段なかなか連絡が取れず、いざという時に初めて「こんなに考え方が違ったのか」と気づくことも少なくありません。
👨⚕️ もくもくポイント
親と子の治療方針のズレは、悪意があるわけではありません。話し合いができていなかっただけ。だからこそ、元気なうちに「もしもの時どうしたい?」と聞いておくことが大切です。
ACPで何を話し合えばいいのか

話し合っておくべき3つのこと
「でも、何をどう話し合えばいいのかわからない」という方も多いと思います。ACPで話し合っておくべきことは、大きく3つあります。
自宅なのか、病院なのか、施設なのか。本人の希望を確認しておくことが第一歩です。
胃ろうや人工呼吸器、心臓マッサージなど、具体的な医療行為についての希望を話し合っておきましょう。
本人が意思表示できなくなった時に、誰が代わりに判断するかを決めておくことも重要です。
しかし現実には、これらを話し合えている家族はごくわずかです。J-STAGEに掲載された研究によると、終末期医療について家庭内で話し合ったことが「ある」と答えた人はわずか27.7%、代理意思決定者を決めていた人は11%、そして話し合いの内容を文書化していた人はわずか1.1%に過ぎませんでした(「アドバンス・ケア・プランニングに関する病院職員の意識と実践の状況」2020年より)。
出典:J-STAGE「アドバンス・ケア・プランニングに関する病院職員の意識と実践の状況」2020年
気持ちは変わっていい〜一回決めたら終わりじゃない〜
ACPで大切なのは、「一度決めたら終わり」ではないということです。
📝 訪問現場より
訪問リハビリで長く関わっていたある利用者さんは、私たち訪問スタッフには「長生きにこだわらなくていい」という気持ちをよく話してくれていました。しかしその思いが家族にはうまく伝わっていなかった。
その後、意思疎通が難しくなった段階で家族が治療選択を迫られ、結果として本人が望んでいたのとは異なる方向の治療が選ばれることになりました。本人の意思はあった。ただ、伝わっていなかっただけで。
人の気持ちは、体の状態や生活環境によって変わるものです。長年の在宅訪問の経験から感じるのは、「あの時こう言っていたから」と過去の言葉だけで固定するのではなく、その時々の気持ちを丁寧に汲み取り続けることが大切だということです。だからこそACPは、繰り返し話し合うプロセスとして位置づけられています。
👨⚕️ もくもくポイント
ACPは一度話し合ったら終わりではありません。体の状態や気持ちが変わるたびに、何度でも話し合い直していいものです。「前にこう言ってたから」と固定しないことが大切です。
家族でACPを始めるための具体的な方法

話し合いのきっかけの作り方
「ACPが大切なのはわかった。でも、どうやって切り出せばいいの?」という方も多いと思います。実は、きっかけは日常の中にあります。
ひとつおすすめなのが、運転免許証の裏面を使う方法です。運転免許証の裏には臓器提供の意思表示欄があります。「これ、どうする?」というひと言から、自然と「もしもの時」の話題に入ることができます。そこから少しずつ、延命治療についての希望や、最期をどこで迎えたいかという話に広げていくことができます。
その他にも、家族の誰かが入院した時、健康診断の結果が出た時、お盆やお正月に家族が集まった時なども、自然に話し合いのきっかけになりやすいタイミングです。
親がACPの話を嫌がった時は
「そんな話はしたくない」と言われてしまうことも、現場ではよくあります。自分の最期を考えることへの抵抗感は、ごく自然な感情です。無理に正面から切り込む必要はありません。
そんな時は、「あなたのためではなく、家族のためにお願いしたい」という角度から伝えてみてください。「もしもの時に、家族が迷ったり困ったりしないように、家族の一員として教えてほしい」という言葉は、本人の抵抗感を和らげることがあります。
自分のためではなく、残された家族への贈り物として話してもらう。そういう伝え方が、話し合いの入口になることがあります。
もしバナゲームという選択肢
「話し合いといっても、どこから手をつければいいかわからない」という方には、「もしバナゲーム」というカードゲームを活用する方法もあります。
もしバナゲームとは、人生の最終段階に大切にしたいことが書かれたカードを使って、自分の価値観や希望を家族と共有するゲームです。ゲーム形式なので、重くなりがちな話題を比較的話しやすい雰囲気で進めることができます。家族の集まりや、介護の話し合いの場などで活用されています。
詳しくは、もしバナゲームの開発元であるiACPの公式サイトをご覧ください。
iACP公式サイト「もしバナゲーム」
エンディングノートとACPの違いと使い方
ACPと混同されやすいものに「エンディングノート」があります。エンディングノートは、自分の希望や情報を書き残すツールです。一方ACPは、家族と繰り返し話し合うプロセスそのものを指します。書くか・話すかの違い、とも言えます。
この2つは組み合わせて使うのが理想的です。家族との話し合いで確認し合った内容を、エンディングノートに書き残しておく。そうすることで、「話したけど誰も覚えていなかった」という状況を防ぐことができます。
「話し合う(ACP)→書き残す(エンディングノート)」のセットで取り組むと、より確実に本人の意思を家族全員で共有することができます。
専門職に頼るという方法
すでに訪問看護や訪問リハビリ、ケアマネジャーなどの介護サービスを利用している場合は、専門職を交えた話し合いの場を設けるという方法もあります。
家族だけでは感情的になりやすい話題も、第三者が入ることで落ち着いて話し合いやすくなります。実際の現場でも、訪問看護師やケアマネジャーが本人と家族それぞれの意向を聞き取り、橋渡し役として話し合いの場を作るケースは少なくありません。まだ介護サービスを利用していない場合は、地域包括支援センターに相談することも選択肢のひとつです。
訪問リハビリのPTとして、私自身もこのような場面に立ち会うことがあります。本人と家族、それぞれ別々に話を聞く機会があるからこそ、「本人はこう思っている」「家族はこう考えている」という双方の気持ちを把握できることがあります。意見が一致していれば特に問題はありません。しかし食い違いが見えた時には、ケアマネジャーを交えながら、本人の意思が尊重される方向で動くことがあります。PTは治療だけでなく、こうした場面でも本人と家族の橋渡し役になれる存在です。
まとめ〜後悔しない看取りのために今できること〜
アドバンス・ケア・プランニングとは、もしもの時のために家族で話し合い、本人の意思を共有しておくプロセスです。難しく考える必要はありません。「もしもの時、どうしたい?」というひと言から始めることができます。
J-STAGEの研究によると、ACPに取り組むことで、家族が代理意思決定をする際の心的負担が軽減され、遺族の抑うつ傾向の減少にもつながることが明らかになっています(「アドバンス・ケア・プランニング支援のポイント」2022年より)。
出典:J-STAGE「アドバンス・ケア・プランニング支援のポイント」2022年
📝 訪問現場より
これは私自身の家族の話です。祖父母が嚥下機能の低下で口から食べることが難しくなってきた時、本人も家族も「無理に長生きはしなくていい」という方針で一致していました。通常食が食べられなくなった時点で食事をストップし、最期は自然な形で看取りました。
私はこういう仕事をしていることもあり、祖父母とも母親とも、終末期についての話し合いができていました。「納得して看取れた」という言い方が正しいかどうかわかりませんが、家族みんなが同じ方向を向いていたことで、後悔のない時間を過ごすことができたと感じています。
大切な人の「もしもの時」は、いつ来るかわかりません。元気なうちに話し合っておくことが、本人の意思を守り、家族が後悔しないための最善の備えになります。今日、家族との会話のきっかけを作ってみてください。
👨⚕️ もくもくポイント
話し合いのきっかけは、運転免許証の裏面でも、家族の集まりでも何でもOKです。大切なのは「いつか話そう」を「今日話そう」に変えること。その一歩が、後悔しない看取りにつながります。
📝 まとめ
- ✅ ACPとは「もしもの時」のために家族で繰り返し話し合い、本人の意思を共有するプロセス
- ✅ 約70%の人が命の危険が迫った時に自分で意思決定できなくなる。だから元気なうちに話しておく
- ✅ 話し合うべき3つのこと:療養・最期の場所/治療方針/代理意思決定者
- ✅ 気持ちは変わっていい。一度決めたら終わりではなく、繰り返し話し合うことが大切
- ✅ 「話し合う(ACP)→書き残す(エンディングノート)」のセットが理想的
・厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」平成30年3月
・厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
・J-STAGE「アドバンス・ケア・プランニングに関する病院職員の意識と実践の状況」2020年
・J-STAGE「アドバンス・ケア・プランニング支援のポイント」2022年
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