📋 この記事でわかること
- ✔ 認知症予防に科学的根拠のある習慣がわかる
- ✔ 運動・食事・睡眠それぞれの予防効果がわかる
- ✔ 今日からできる具体的な行動がわかる

親が最近もの忘れが増えてきた気がして…。何かできることってあるんでしょうか。

認知症って、結局なるときはなるんじゃないの?

その不安、よくわかります。でも認知症は「なるかならないか運任せ」の病気ではありません。生活習慣でかなり変えられることが、最新の研究で明らかになってきています。
でも実は、最新の研究では認知症の最大45%は生活習慣の積み重ねで予防または発症を遅らせられることが示されています。
「何か特別なことをしなければ」と思う必要はありません。日々の運動・食事・睡眠・人とのつながり。その一つひとつが、脳を守ることにつながっています。
訪問リハビリ歴12年以上・12,000件超の訪問経験を持つ理学療法士として、現場で感じてきたことと最新のエビデンスをあわせてお伝えします。
認知症は「生活習慣」で最大45%予防できる
「認知症は遺伝や年齢のせいだから、どうしようもない」
そう思っている方は少なくありません。でも、それは半分しか正しくありません。
2024年、世界で最も権威ある医学誌のひとつ『Lancet』の認知症研究グループが発表した最新レポートでは、14の修正可能なリスク因子に取り組むことで、世界の認知症の最大45%が予防または発症を遅らせられると報告されています。
14のリスク因子には以下のようなものが含まれます。
✅ 認知症の「修正可能なリスク因子」(主なもの)
- 運動不足
- 社会的孤立
- 睡眠障害
- 肥満・高血圧・糖尿病
- 難聴・視力低下
- 喫煙・過度の飲酒
- 大気汚染 など
つまり認知症は、「なるかならないか運任せ」の病気ではありません。毎日の生活習慣の積み重ねが、脳の未来を決めるのです。
認知症予防に効果的な運動とは
認知症予防において、運動は最も根拠のある対策のひとつです。
「なんとなく体にいい」という話ではありません。運動が脳に働きかけるメカニズムが、科学的に解明されてきています。
有酸素運動が脳を守るメカニズム
運動をすると、脳の中で次の3つのことが起きます。
アルツハイマー型認知症の原因物質「アミロイドβ」を分解する酵素(ネプリライシンなど)が活性化され、脳内への蓄積を防ぎます。
筋肉から放出される「イリシン」が神経栄養因子(BDNF)を増やし、記憶を司る海馬を活性化・保護します。
有酸素運動で全身の血流が改善されると、脳への酸素・栄養の供給が増え、神経細胞の維持につながります。
ウォーキングや軽いジョギングなど、軽く息が上がる程度の有酸素運動を週150分程度行うことが目安とされています。
コグニサイズとは?「体を動かしながら頭も使う」が最強の理由

運動の効果をさらに高める方法があります。それがコグニサイズです。
コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターが開発した認知症予防プログラムで、「認知(Cognition)」と「運動(Exercise)」を組み合わせた造語です。
具体的には、足踏みをしながら3の倍数のときだけ手をたたく、歩きながらしりとりをするといった「体を動かしながら同時に頭も使う」二重課題トレーニングです。
なぜこれが効果的かというと、複数のことを同時にこなす処理こそが、日常生活で最も脳を使う場面だからです。単純な脳トレや運動を別々にやるより、同時に行うことで脳への負荷が高まり、認知機能低下の抑制効果が得られることが明らかになっています。
特別な道具も場所も必要ありません。散歩しながら家族と話すだけでも、立派なコグニサイズになります。
訪問リハ現場で感じること|外出と人とのつながりが鍵だった
12,000件以上の訪問リハビリを経験してきた中で、「この方は認知機能が保たれているな」と感じる利用者さんには、ある共通点がありました。
外出の機会が多いこと。自宅に人が訪ねてくること。年齢を重ねても新しいことに興味を持ち続けていること。
逆に、認知機能が急激に低下するターニングポイントとして最も印象に残っているのが、配偶者との死別です。
📝 訪問現場より
長年連れ添ったパートナーを亡くしたあと、それまで毎日続けていた畑仕事や外出がぱたりとなくなってしまう方がいます。そういった方が、半年後に認知機能が大きく低下しているケースを何度も経験してきました。
— 訪問リハ12年の現場から
認知症の初期症状チェックリストでも触れましたが、生活習慣の急激な変化は、認知機能低下のサインでもあります。
「体を動かし続けること」と「社会とつながり続けること」。この2つが、現場で感じる認知症予防の本質です。
👨⚕️ もくもくポイント
訪問リハで感じてきたのは、特別な対策をしている人より、外に出て人と話し続けている人の方が認知機能を長く保っているということ。エビデンスはその現場感覚をそのまま裏付けてくれていた。
「机上の脳トレ」より「離れた家族との10分電話」が脳にいい

「認知症予防のために脳トレアプリを毎日やっています」
そういう話をよく聞きます。取り組む姿勢はすばらしい。でも、正直に言います。
スマホの脳トレアプリより、離れて暮らす家族に電話する方が、脳への刺激としてはるかに大きいのです。
会話が脳トレより優れている理由
人と話すとき、脳の中では同時にいくつものことが起きています。
✅ 会話中に脳が同時にやっていること
- 相手の言葉を理解する
- 適切な言葉を選んで返す
- 相手の表情や感情を読み取る
- 過去の記憶を引き出してエピソードを話す
- 話の流れを予測しながら聞く
これだけの処理を、会話中は無意識に同時並行でこなしています。画面上で数字を並べ替えたり計算をしたりする脳トレとは、脳への刺激の質も量もまったく異なります。
東京大学の研究グループが行った追跡調査では、社会的な交流活動に継続して参加した高齢者は、参加しなかった群と比べて6年後のMRI検査で海馬の萎縮が有意に抑制されていたことが明らかになっています。海馬は記憶の中枢です。人とつながることが、文字通り脳の萎縮を防いでいたのです。
また厚生労働省の研究報告でも、社会参加・社会的ネットワークが認知症発症に対する保護的因子として複数の研究から認められています。
毎日10分の電話が「認知症の早期発見」にもなる
離れて暮らす親への電話には、もうひとつ大切な意味があります。
変化に気づける、ということです。
「最近同じ話を何度もする」「話の辻褄が合わなくなってきた」「声に張りがなくなった」——こういった変化は、月に1回会うより、毎日10分話す方がずっと早く気づけます。
エピソード記憶(いつ・どこで・何をしたかという具体的な記憶)の低下は、認知症の初期に現れやすいサインのひとつです。日常の電話の中で「今日どこ行ったの?」「昨日の夕飯何だった?」と自然に聞くだけで、変化のチェックができます。
脳トレアプリを課題としてこなすより、家族の声を聞いて笑う。その方が、お互いにとってずっと豊かな認知症予防です。
👨⚕️ もくもくポイント
「脳トレアプリを毎日やっています」という話をよく聞くが、離れた家族への10分電話の方が脳への刺激ははるかに大きい。しかも変化にも気づける。続けやすい方を選んでほしい。
食事で認知症リスクを下げるには
食事と認知症の関係について、「これさえ食べれば予防できる」という魔法の食品はありません。
ただ、研究から見えてきていることはあります。
大切なのは「特定の食品」より「食事全体のバランス」です。
2015年にフィンランドで行われたFINGER研究では、運動・栄養指導・認知トレーニングを組み合わせた多因子介入によって、認知機能低下の速度が緩やかになることが世界で初めて示されました。この研究の栄養指導で重視されたのも、特定の栄養素ではなく多様な食品をバランスよく摂ることでした。
現時点でわかっていることを整理すると、以下のポイントが参考になります。
高齢になっても必要量は若い人とほぼ同じ。筋肉を維持することは脳への血流維持にも直結します。
緑茶・コーヒーのポリフェノールにはアミロイドβ蓄積を抑える働きが。特別なサプリより毎日の一杯の緑茶が現実的です。
肥満・糖尿病はLancet2024でも認知症リスク因子。動脈硬化を防ぐ意味でも腹八分目を意識することが大切です。
📝 訪問現場より
訪問リハの現場で感じてきたのは、食事に関して「これが効いている」と断言できるものはないということ。ただ、食欲があって誰かと一緒に食卓を囲んでいる方は、総じて元気でした。
食事の内容だけでなく、「誰と食べるか」も脳への大切な刺激です。
— 訪問先の食卓から感じてきたこと
睡眠中に脳の「ゴミ」が排出される仕組み

「睡眠と認知症がなぜ関係するの?」と思う方もいるかもしれません。
実はこれ、メカニズムがはっきりわかっています。
脳にはグリンパティックシステムと呼ばれる、脳内の老廃物を洗い流す排出システムがあります。このシステムが最も活発に働くのが、睡眠中です。
眠っている間、脳の神経細胞は収縮し、細胞どうしの隙間が広がります。その隙間を脳脊髄液が流れることで、日中に蓄積した老廃物——その代表がアミロイドβ——が効率よく排出されます。
そして注目すべきデータがあります。
睡眠の質が悪化すると、アミロイドβの脳内蓄積量が5倍以上になるという報告があります。
逆に言えば、毎晩しっかり眠ることは、脳内のゴミ掃除を毎晩きちんとやることと同じです。
また国立長寿医療研究センターの研究では、運動も脳脊髄液の循環を改善する効果があることが示されています。適度に体を動かし、よく眠る。この組み合わせが、最新科学に裏付けられた認知症予防の基本です。
睡眠の目安としては、1日7時間前後が認知症リスクとの関係で最も良好とされています。「歳をとると眠れなくなる」と諦めず、眠りの質を意識した生活習慣を整えることが大切です。
⚠️ アルコール・睡眠薬で「眠れた」は注意
お酒で眠ろうとすると、睡眠が浅くなりグリンパティックシステムが十分に働きません。市販の睡眠補助薬も同様です。眠りの「量」より「質」が大切で、深い睡眠をとれているかどうかがポイントです。眠れない悩みが続く場合は、かかりつけ医にご相談ください。
👨⚕️ もくもくポイント
睡眠中に脳のゴミが排出されるという仕組みを知ったとき、「だから夜更かしが続いた利用者さんは調子が悪くなるのか」と腑に落ちた。運動してよく眠る、これだけで脳の掃除は毎晩できる。
認知症予防は何歳から始めるべきか
「もう70代だから今さら遅いかな」
そう思っている方に、はっきりお伝えしたいことがあります。
遅すぎることはありません。ただし、早いほど効果は大きい。
アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβの脳内蓄積は、発症の20〜30年前から始まることがわかっています。つまり、70代で認知症を発症した方の脳では、40〜50代からすでに蓄積が進んでいた可能性があります。
Lancet2024の報告でも、認知症のリスク因子への対策は少年期・中年期・老年期のそれぞれのステージで異なると整理されています。中年期(45〜65歳前後)からの取り組みが、発症予防に特に大きく影響するとされています。
だからこそ、「親が心配だから」という理由でこの記事を読んでいる40〜50代の方にも、他人事ではありません。
自分自身の生活習慣を見直す機会として捉えてほしいと思います。
一方で、70代・80代からでも遅くない根拠もあります。
神戸大学が2024年に発表したJ-MINT研究では、すでに高齢の方を対象にした多因子介入プログラムで認知機能の改善が確認されています。脳には可塑性——変化し続ける力——があります。何歳からでも、働きかけることに意味があります。
訪問リハの現場でも、80代で新しい趣味を始めた方、90代でも近所への外出を続けている方が、認知機能を長く保っている姿を何度も見てきました。逆に、急激に活動量が落ちたタイミングで認知機能も一気に低下するケースを何度も目にしています。活動量低下のリスクについては廃用症候群の記事でも詳しく解説しています。
「もう遅い」ではなく「今日から始める」。それが認知症予防の正しい向き合い方です。
👨⚕️ もくもくポイント
配偶者を亡くしてから一気に衰えるケースを何度も見てきた。あれは悲しみだけが原因ではなく、外出・会話・役割、すべてが同時になくなるからだと今は思っている。
まとめ
この記事では、認知症予防のために今日からできることを、最新のエビデンスと訪問リハの現場経験をあわせてお伝えしました。
最後に要点を整理します。
📝 まとめ
- ✅ 認知症の最大45%は生活習慣で予防・遅延できる(Lancet2024)
- ✅ 運動は脳に直接働きかける。有酸素運動+コグニサイズの二重課題が特に効果的
- ✅ 脳トレアプリより家族との10分電話の方が脳への刺激は大きく、変化にも早く気づける
- ✅ 食事はバランスが大切。特定の食品より多様な食品を腹八分目で
- ✅ 睡眠中に脳のゴミが排出される。質の低下でアミロイドβ蓄積が5倍以上に
- ✅ 何歳からでも遅くない。ただし40〜50代からの対策が最も効果的
どれかひとつだけ完璧にやろうとする必要はありません。運動・食事・睡眠・人とのつながり、できることから少しずつ積み重ねていくことが、脳を守る最善の方法です。
訪問リハの現場で長く元気でいる方に共通しているのは、特別なことをしている人ではありませんでした。外に出て、人と話して、よく食べて、よく眠る。その積み重ねが、脳の未来をつくっています。
👉 あわせて読みたい
・Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404(10452):572-628.
・神戸大学・J-MINT PRIME Tamba研究「運動を主体とした多因子介入により認知機能が向上」2024年9月
・国立長寿医療研究センター「認知症予防運動プログラム コグニサイズ」
・国立長寿医療研究センター「睡眠と認知症」
・公益財団法人長寿科学振興財団「認知症の予防 社会的交流・知的活動の視点から」REPRINTS研究


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