📋 この記事でわかること
- ✔ 高齢者のQOL(生活の質)とは何か
- ✔ 生きがいを尊重することがなぜ大切なのか
- ✔ 家族としてどう関わればいいか

お父さん、先生にタバコやめろって言われてるんだから、もうやめてよ!

死んでもいいからタバコは吸いたいんだ。これだけが楽しみなんだから。

そんなこと言わないでよ…でも、どうしたらいいの?
「やめさせなきゃ」と思うのは、家族として当然の気持ちです。でも、無理にやめさせることで、その人の生きる気力が失われてしまうことがあります。
訪問リハビリに従事して12年・12,000件以上の在宅現場を見てきた理学療法士として、「やめさせることだけが愛情じゃない」と感じる場面を何度も経験してきました。
この記事では、高齢者のQOL(生活の質)と生きがいについて、現場の実話を交えながら家族の方に向けてお伝えします。
QOLとは何か―「生活の質」を正しく理解する

医療でいうQOLの定義
「QOL」という言葉を聞いたことはありますか?QOLとは「Quality of Life」の略で、日本語では「生活の質」と訳されます。
医療や介護の現場では日常的に使われる言葉ですが、その意味は単純ではありません。出村・佐藤(2006年)によると、QOLには「健康関連QOL」と「主観的QOL」の2種類があり、健康関連QOLは身体・精神・社会・機能などの多角的な側面から個人の状態を評価するものです(体育学研究より)。
出典:出村慎一・佐藤進(2006年)「日本人高齢者のQOL評価」体育学研究
つまりQOLは「病気があるかどうか」だけで測れるものではなく、その人が毎日をどう感じているか、何に喜びを見出しているか、という主観的な部分も含まれています。
高齢者にとってのQOLとは「その人らしく生きること」
では、高齢者にとってのQOLとは具体的に何でしょうか。
体が動かなくなっても、病気があっても、「今日も美味しいものが食べられた」「好きなテレビが見られた」「孫と話せた」―そういった日々の小さな喜びの積み重ねが、高齢者のQOLを支えています。
医療的に正しい管理をすることと、その人が「生きていてよかった」と感じられることは、必ずしも一致しません。タバコをやめて寿命が少し延びても、毎日つまらなくて生きる気力がないなら、それはその人にとって本当に良い状態といえるでしょうか。
高齢者のQOLを考えるとき、「その人らしく生きられているか」という視点が欠かせないのです。
👨⚕️ もくもくポイント
QOLは「病気があるかどうか」だけで測れるものではない。その人が毎日をどう感じているか、何に喜びを見出しているかという主観的な部分も含まれている。
高齢者の生きがいがなぜ大切なのか

生きがいを持つ人は死亡率が低い―研究が示すデータ
「生きがい」は気持ちの話だから、健康とは関係ない―そう思っていませんか?実は、生きがいは医学的にも健康に深く関わることがわかっています。
田野ら(2009年)がJACC研究(日本共同コホート研究)で中高年・高齢者を対象に行った大規模調査では、生きがいを持つ人は持たない人と比べて全死因死亡率が有意に低いことが示されています(Journal of Psychosomatic Researchより)。
出典:田野ら(2009年)「ikigaiと全死因死亡率の関連」JACC Study, Journal of Psychosomatic Research
つまり、生きがいを持って生活することは、単なる「気持ちの問題」ではなく、寿命にも影響する可能性があるということです。好きなことを続けることが、その人の命を支えている側面もあるのです。
👨⚕️ もくもくポイント
生きがいを持つ人は死亡率が低いという大規模研究がある。好きなことを続けることが、その人の命を支えている側面もある。
内閣府調査が示す「生きがいを感じていない高齢者」の現実
一方で、すべての高齢者が生きがいを感じているわけではありません。
内閣府「令和4年度 高齢者の健康に関する調査」によると、生きがいを「十分感じている」高齢者は30.9%にとどまり、「あまり感じていない」「全く感じていない」と回答した人が合わせて約22%にのぼります(内閣府より)。
約5人に1人の高齢者が、生きがいをほとんど感じられていない現実があります。病気の管理や安全を優先するあまり、本人の楽しみや喜びが後回しになっていないか―家族として一度立ち止まって考えてみてほしいのです。
「やめなさい」が生きる気力を奪うとき

医師・家族の制限が本人のQOLを下げるケース
「先生にやめろと言われているから」「体に悪いから」という理由で、タバコやお酒、甘いものを禁止する。家族としては当然の判断です。
しかし、訪問リハビリの現場で長年感じてきたのは、制限することで医療的な数値は改善しても、その人の表情が曇っていくケースが少なくないということです。
毎日の楽しみを取り上げられた高齢者は、「もう何もいいことがない」「生きていても仕方ない」という言葉を口にすることがあります。病気は管理できても、生きる意欲が失われてしまう―これもQOLの低下です。
訪問現場で見てきたこと―生きる気力をなくした人たち
実際に訪問の現場で、こういった場面を何度も見てきました。
📝 訪問現場より
病気を抱えながらも毎日畑仕事を続けていた利用者さんがいました。畑に出ることが体を動かす機会になり、生きがいにもなっていた。ところがある日、畑で転倒してしまい、心配した家族から「もう畑はやめて」と言われました。
本人は家族の気持ちを受け入れ、畑をやめました。でもそれ以来、みるみるうちに体が弱っていった。会話が減り、外に出なくなり、表情が乏しくなっていく。あとから振り返ると、畑仕事がその方にとってのリハビリであり、生きがいそのものだったのだと強く感じました。
⚠️ 「やめさせること」がゴールになっていませんか?
もちろん、禁煙・禁酒が正解の場合もあります。ただ、「やめさせること」だけがゴールになってしまうと、本人の気持ちや生きがいが置き去りになるリスクがあります。
本人の意思を尊重するとはどういうことか

自己決定とQOLの関係
「自己決定」とは、自分の人生のことを自分で決めるという考え方です。医療や介護の世界では、本人の意思を尊重することが質の高いケアの基本とされています。
在宅で介護を受けている高齢者を対象にした研究(小松ら、2021年)では、日常のケアに関する意思決定に関わっている高齢者は、そうでない高齢者と比べて認知機能の低下が少ないことが示されています。自分で決める、という行為そのものが、その人の心身の状態を支えているのです。
出典:小松ら(2021年)「Involvement in Decision-Making for Daily Care and Cognitive Decline」国立長寿医療研究センター
「タバコを吸うかやめるか」「お酒を飲むか飲まないか」―これも本人の自己決定の範囲です。危険性を十分に理解したうえで本人が選んだことであれば、それはその人の人生の選択として尊重される余地があります。
リスクを知ったうえで「吸う」と選んだなら
とはいえ、医療従事者として危険な行為を積極的に勧めることはできません。現場ではこの二つの間で、どう折り合いをつけるかが問われます。
📝 訪問現場より
慢性呼吸不全があり、主治医からタバコをやめるよう言われていた男性の利用者さんがいました。体が弱り、以前のようにたくさん吸えなくなっていましたが、週に1本だけ、デイサービスから帰った日のご褒美として吸い続けていました。

先生にタバコをやめるよう言われた通り、吸い続けるリスクは高いです。でも、本人も家族もそれを受け入れたうえで「吸う」と判断するなら、私はあなたたちの選択を尊重します。
この判断は、医療従事者としては失格かもしれません。でも、長年いろんな利用者さんを見てきたからこそ、やめることによるその後の精神的な変化が予測できる。だからこそ、そのときは尊重しました。
ただ、判断に迷っている人がいるなら、私は嫌われてでも医師の言うとおりにするよう伝えます。あくまでもそのときの利用者さんと家族の状態を見て判断する。そういった場の判断ができることも、在宅支援に求められるスキルのひとつだと感じています。
家族ができること―やめさせる以外の関わり方

本人と家族が同じ意向を持てるための話し合い
「やめさせること」以外に、家族にできることはたくさんあります。まず大切なのは、本人がどう生きたいかを聞くことです。
✅ 家族の話し合いで大切な3つのポイント
- 「あなたはどうしたい?」と本人の気持ちを先に確認する
- そのうえで、家族としての心配も正直に伝える
- 制限する会話ではなく、本人の楽しみや喜びを一緒に考える
内閣府の調査では、生きがいを感じている高齢者ほど家族や友人との交流が多いことも示されています(内閣府より)。制限する会話ではなく、本人の楽しみや喜びを一緒に考える会話が、QOLを支えることにつながります。
危険性を伝えたうえで尊重するという選択
もう一つ、家族に持っていてほしい視点があります。それは「危険性を伝えることと、尊重することは両立できる」ということです。
「タバコを吸い続けると、呼吸がさらに苦しくなるリスクがある。それでもあなたが吸いたいなら、私たちはあなたの気持ちを尊重する」―この伝え方は、禁止でも放任でもありません。
リスクをきちんと共有したうえで、最終的な選択を本人に委ねる。これが、医療的な正しさと本人の生きがいの両方を大切にする関わり方だと思います。
家族の役割は、本人の人生を管理することではなく、本人が自分らしく生きるための伴走者であることではないでしょうか。
👨⚕️ もくもくポイント
危険性を伝えることと尊重することは両立できる。リスクをきちんと共有したうえで、最終的な選択を本人に委ねることが、医療的な正しさと生きがいの両方を大切にする関わり方だ。
それでも長生きしてほしいなら、まず気持ちを伝える
「尊重する」という関わり方をお伝えしてきましたが、家族の気持ちはそう単純ではないと思います。「それでもやっぱり長生きしてほしい」「体が心配でたまらない」という思いも、同じくらい本物の愛情です。
✅ それでも長生きしてほしいなら、この順番で
- まず本人に「ずっと元気でいてほしい。だから心配している」と気持ちを直接届ける
- それでも本人の意思が変わらないなら、主治医・ケアマネジャー・訪問看護などを巻き込んで一緒に話し合う
それでも本人の意思が変わらないなら、一人で抱え込まないでください。主治医やケアマネジャー、訪問看護・訪問リハビリ・訪問介護などの在宅サービスのスタッフは、こういった場面で一緒に考えてくれる存在です。家族だけで説得しようとするより、信頼できる第三者を巻き込んで本人と話し合う場をつくることが、関係を壊さずに前に進む方法になることがあります。
まとめ
「やめさせなきゃ」という気持ちは、愛情から来るものです。それは間違いではありません。
ただ、無理に制限することで生きる気力を失っていく高齢者を、訪問の現場で何人も見てきました。医療的に正しい選択が、その人のQOLを下げることがある。これは現実としてあります。
📝 まとめ
- ✅ 本人がどう生きたいかを聞くことが第一歩
- ✅ 危険性を伝えたうえで、最終的な選択を本人に委ねる
- ✅ 家族と本人が同じ方向を向いて話し合えることが大切
- ✅ やめさせることだけが愛情ではない。その人らしく生きることを支えるのも家族の大切な関わり方
👨⚕️ もくもくポイント
家族の役割は本人の人生を管理することではなく、本人が自分らしく生きるための伴走者であること。やめさせることだけが愛情ではない。
・内閣府「令和4年度 高齢者の健康に関する調査」
・出村慎一・佐藤進(2006年)「日本人高齢者のQOL評価」体育学研究
・田野ら(2009年)「ikigaiと全死因死亡率の関連」JACC Study
・小松ら(2021年)「Involvement in Decision-Making for Daily Care and Cognitive Decline」国立長寿医療研究センター


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