認知症の徘徊はなぜ起きる?原因と、家族が抱える3つの誤解

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📋 この記事でわかること

  • ✔ 認知症の親が歩き回るのは「意味のない行動」ではなく、本人には理由があること
  • ✔ 徘徊をめぐる「3つのよくある誤解」の正体
  • ✔ 「放置は罪?」「寿命は縮む?」という家族の不安への向き合い方
もくもく

・理学療法士歴15年|訪問リハビリ12年|累計12,000件以上の訪問
・在宅生活の専門家:小さなお子さんから難病、高齢の方まで幅広くサポート
・現場目線の発信:現場で培った「長く・安全に自宅で過ごすための工夫」を公開中

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「最近、母が家の中や外を歩き回るようになって…。理由もわからないし、認知症だから仕方ないのかな、って。でも、何とかしてあげたい気持ちもあって、どうすればいいのか分からないんです」

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そのお気持ち、痛いほどよくわかります。歩き回るお母さまを見ていると、不安にもなりますし、「なぜ?」という思いも湧いてきますよね。でも、実は徘徊には、本人なりの”理由”があることがほとんどなんです。

理学療法士として訪問の現場で12年間、認知症のある方を数多く見てきた経験から言えるのは──「意味のない徘徊」というものは、ほとんど存在しない、ということです。この記事では、なぜ歩くのか、そして家族が抱えやすい”3つの誤解”を、現場のエピソードを交えながら一緒に解きほぐしていきます。

実際、認知症やその疑いで行方不明になった方は、令和4年の1年間で18,709人にのぼります(警察庁調べ)。決して珍しいことではなく、多くのご家族が同じ不安と向き合っています。

認知症の徘徊はなぜ起きる?──「意味のない徘徊」はほとんどない

家の中を歩き回る高齢の親と、その理由を見守る家族の水彩イラスト

「徘徊」という言葉には、”あてもなく歩き回る”というイメージがつきまといます。でも、現場で数多くのケースを見てきて、私が確信していることがあります。それは、歩き回る行動の裏には、本人なりの理由や目的がほとんどの場合ある、ということです。

なお、近年は「徘徊」という言葉自体が、こうした”あてもなく歩く”という誤ったイメージにつながるとして、「ひとり歩き」などと言い換える動きも広がっています。本記事では、情報を探しているご家族に届きやすいよう「徘徊」の語を使いますが、その行動には必ず本人なりの理由がある、という前提でお読みいただければと思います。

このことは、私だけの実感ではありません。日本作業療法士協会も、徘徊について次のように説明しています。客観的には目的不明に見えても、本人にとってははっきりとした目的があったり、外出して道に迷ってしまったなどの理由があり、本人にとっては切実な行動である場合が多い、とされています。

出典:日本作業療法士協会「認知症の徘徊、どう受け止める?」

つまり、私たち家族の目に「わけもなく歩いている」ように映っても、本人の中では筋の通った目的があるのです。たとえば、次のような理由が背景にあることがあります。

✅ 歩き回る、よくある理由

  • トイレの場所がわからず、探して歩いている
  • 昔の通勤や買い物の習慣が、体に残っている
  • 不安で落ち着かず、誰かを探している
  • 「家に帰らなければ」という思いに駆られている(今いる場所が自分の家だと認識できない)

どれも、本人にとっては切実で、目的のある行動です。

現場で出会った「妻を探して歩く」男性のこと

📝 訪問現場より

以前、訪問でうかがっていた70代の男性のケースが、今も強く印象に残っています。その方はレビー小体型認知症で、奥さんと二人暮らしをされていました。ある時期から、家の中にいるはずの奥さんを探して、外に出て行こうとするようになったんです。ご家族が追いかけて見つけると、その方はこう口にされていました。「妻がいない」と。奥さんは、すぐそばにいるのに──。

実はこれは、後ほど詳しくお話しする「カプグラ症候群」という症状が関係していました。目の前にいる奥さんを「偽物」と感じてしまい、”本物の妻”を探して歩いていたのです。このケースは最終的に、奥さまの負担も大きくなり、主治医に相談して内服の調整のために入院となりました。それでも私がこのお話をご紹介したいのは、「歩き回る」という行動の奥に、これほど切実な理由が隠れていることがある、と知っていただきたいからです。

「意味のない徘徊」だと思って見るのと、「この人には何か理由があるはずだ」と思って見るのとでは、関わり方がまったく変わってきます。

👨‍⚕️ もくもくポイント

訪問の現場で私がいつも心がけているのは、歩き回るご本人を見たとき、まず「何を探しているのかな」「どこへ行こうとしているのかな」と考えてみることです。行き先や口にする言葉の中に、その人の理由が隠れていることが本当に多いんです。理由がわかると、こちらの声のかけ方も自然と変わってきますよ。

徘徊をめぐる「3つの誤解」を解いておこう

認知症の徘徊をめぐる家族の3つの誤解を表す水彩イラスト

徘徊について、ご家族が抱えやすい誤解がいくつかあります。この誤解が、不安や罪悪感を大きくしてしまうことも少なくありません。ここでは、特に多い3つの誤解を、一つずつ解いていきます。

誤解①「徘徊=必ず認知症」とは限らない

「歩き回る=認知症」と考えている方は多いのですが、これは正確ではありません。徘徊のように見える行動は、認知症以外の原因でも起こることがあります。

たとえば、次のようなケースです。

✅ 認知症以外で歩き回る主な原因

  • せん妄(急な体調の変化・脱水・薬の影響などで、一時的に意識が混乱する状態)
  • 強い不安や、環境の変化によるストレス(入院・引っ越し・家族構成の変化など)
  • 身体の不快感(痛み・かゆみ・便秘・空腹など、うまく言葉にできない不調)

これらは認知症とは別の要因ですが、落ち着かず歩き回る行動につながることがあります。特にせん妄は、原因に対処すれば改善することが多く、認知症とは区別して考える必要があります。

⚠️ 「急に始まった徘徊」は決めつけないで

「歩き回るようになった=認知症が進んだ」と決めつけないことが大切です。急に始まった、いつもと様子が違う──そんなときは、体調の変化やせん妄が隠れている可能性もあります。気になる変化があれば、まずは主治医に相談してみてください。

なお、この記事の中心でご紹介した男性は認知症(レビー小体型)のケースですが、ここでお伝えしたいのは「歩き回る=すべて認知症」とは限らない、ということです。まずは思い込みで決めつけず、いつもと違う様子がないかを見てあげてください。

誤解②「徘徊は認知症の中核症状」ではない

もう一つ多いのが、「徘徊は認知症そのものの症状(=避けられない中核症状)だ」という誤解です。

認知症の症状は、大きく2つに分けられます。

✅ 認知症の症状は大きく2つに分けられる

  • 中核症状:脳の神経細胞が障害されることで、直接起こる症状。記憶障害、見当識障害(時間・場所がわからなくなる)など。
  • BPSD(行動・心理症状):中核症状に、本人の性格・不安・体調・周囲の環境などが絡み合って、二次的に現れる症状。

徘徊は、このうちBPSD(行動・心理症状)に分類されます。つまり、認知症そのものから直接生まれるのではなく、「見当識障害という中核症状」+「不安や環境などの要因」が組み合わさって現れる症状なのです。

出典:日本老年医学会「認知症のBPSD」

この違いは、とても重要です。なぜなら、BPSDは背景にある要因に働きかけることで、和らげられる可能性があるからです。この点は、次の誤解③でお話しします。

誤解③「徘徊は治らない・止められない」わけではない

「徘徊はどうにもならない」「認知症なんだから止められない」──そう感じているご家族は、とても多いです。でも、これも誤解です。

正確に言えば、認知症そのものが「治る」わけではありません。ただ、「徘徊という行動をやわらげる・減らす」ことは十分に可能です。「治らない=何もできない」ではない、ということをまずお伝えしたいと思います。

先ほどお話しした通り、徘徊はBPSD(行動・心理症状)です。そしてBPSDへの対応については、厚生労働省のガイドラインでも方針が示されています。認知症のBPSDに対しては、まず薬に頼るのではなく、環境調整やケアの工夫といった「非薬物的な対応」を第一に行うことが原則とされているのです。

出典:厚生労働省「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」

ただし、これは「薬を絶対に使わない」という意味ではありません。ご本人の不安や興奮が強く、本人もご家族も限界に近いようなときには、主治医の判断で薬を使って症状をやわらげることもあります。大切なのは、いきなり薬に頼るのではなく、まず背景にある理由に目を向ける、という順番です。

実際、この第3版では「徘徊」は薬の効果が乏しい症状として整理され、環境の工夫やケアでの対応がすすめられています。

これはつまり、こういうことです。歩き回る背景にある理由──不安なのか、トイレを探しているのか、昔の習慣なのか──それを一つずつ読み解いて対応していけば、徘徊は減らせる可能性がある。「治らないもの」ではなく、「関わり方で変えられるもの」なのです。

もちろん、すべてがすぐに解決するわけではありません。冒頭でご紹介した男性のように、ご家族の負担が大きくなり、入院や専門的な治療が必要になるケースもあります。それでも、「原因に目を向ければ、できることがある」と知っているだけで、向き合い方は大きく変わってきます。

👨‍⚕️ もくもくポイント

「治らないもの」と思っていたことが、「関わり方で変えられるもの」だと知る──この視点の転換は、介護を続けるご家族にとって、とても大きな支えになります。もちろんすぐに変化が出ないこともありますが、「できることがある」と思えるだけで、明日の関わり方が少し軽くなるはずです。

「妻を探して歩く」の正体──カプグラ症候群と、背景の多様性

目の前の家族を別人と感じてしまうカプグラ症候群のイメージを表す水彩イラスト

先ほどのエピソードで触れた「カプグラ症候群」について、もう少し詳しくお話しします。徘徊の背景には、こうした一人ひとり異なる事情があることを知っていただきたいからです。

カプグラ症候群とは──「替え玉妄想」

カプグラ症候群は、目の前にいる家族を「偽物とすり替わった」と感じてしまい、”本物”はどこか別の場所にいると思い込む症状です。「替え玉妄想」とも呼ばれます。だからこそ、本物の妻や娘を探して、家の外へ出て行こうとするのです。

出典:認知症の語りデータベース(ディペックス・ジャパン)「レビー小体型認知症に特徴的な症状」

なぜこんなことが起きるのでしょうか。はっきりと解明されてはいませんが、顔を見て「誰か」を認識する脳の部分と、親しい人に触れたときに湧き起こる感情をつかさどる部分が、うまく連動しなくなるためだと考えられています。顔はそっくりなのに、いつもの”親しみの感情”が湧いてこない。だから「似ているけれど、これは偽物だ」と感じてしまう──そういう仕組みです。

冒頭の男性が「妻がいない」と言って探し歩いていたのも、まさにこれでした。奥さんはすぐそばにいたのに、本人にとっては”本物の妻が消えてしまった”という切実な状況だったのです。

徘徊の背景は「アルツハイマー型」だけではない

もう一つ知っておいていただきたいのが、認知症にはいくつもの種類があり、徘徊の背景も一つではない、ということです。

カプグラ症候群のような誤認は、特にレビー小体型認知症で多くみられます。ある研究では、レビー小体型認知症では初期の段階でも約20%の方に、人物誤認や場所誤認、「本当はいない身内がいる」といった誤認がみられると報告されています。一方、アルツハイマー型認知症では、こうした誤認は病状が進行してから現れることが多いとされています。

出典:日本神経心理学会「アルツハイマー病とレビー小体型認知症の誤認と妄想」

✅ 認知症のタイプで「歩く背景」は変わる

  • レビー小体型:初期から人物・場所の誤認や幻視が関係することがある(初期でも約20%に誤認)
  • アルツハイマー型:こうした誤認は、病状が進行してから現れることが多い

つまり、「認知症=アルツハイマー型」「徘徊=記憶障害のせい」と一括りにはできない、ということです。同じ”歩き回る”という行動でも、レビー小体型なら誤認や幻視が関係していたり、別のタイプならまた違う背景があったりします。

だからこそ、「なぜこの人は歩くのか」を考えるときには、原因となっている認知症のタイプや、その人ならではの事情に目を向けることが、対応の第一歩になるのです。

「放置は罪?」「寿命は縮む?」──家族が抱える不安に寄り添う

徘徊する親を見守りながら不安と罪悪感を抱える家族の水彩イラスト

徘徊と向き合うご家族から、私がよく耳にする言葉があります。「見ていられなかった自分は、親を放置したことになるのでは」「歩き回らせていたら、寿命が縮んでしまうのでは」──こうした不安や罪悪感です。ここでは、その気持ちに正面から向き合ってみたいと思います。

「放置してしまった」と自分を責めないでほしい

まず、はっきりお伝えしたいことがあります。24時間、片時も目を離さずに見守り続けることは、誰にもできません。

介護をしながら、家事をして、仕事をして、自分の生活も回していく。そんな中で、ほんの少し目を離した隙に親が出て行ってしまう──これは「放置」ではなく、介護をしている誰にでも起こりうることです。むしろ、そうやって不安を抱えながら向き合っていること自体が、しっかり親御さんと向き合っている証拠なんです。

もし「一人で見守るのは限界だ」と感じているなら、それは責められることではなく、周囲の助けを求めるべきサインです。ケアマネジャーに相談する、デイサービスやショートステイを使う、地域の見守りネットワークを頼る──使える手はたくさんあります。抱え込まず、周りの力を借りることは、決して「放置」ではありません。離れて暮らしていて見守りが難しい場合は、センサーで生活の変化に気づく方法を取り入れるのも一つです。

「寿命が縮む」より、まず”安全”を一緒に考える

「歩き回らせていたら寿命が縮むのでは」という不安については、正直にお話しします。徘徊そのものが直接寿命を縮めるというより、心配なのは歩き回る途中で起こりうる事故やケガ、そして体調の悪化です。

⚠️ 歩き回る途中で心配なリスク

  • 屋外での転倒・ケガ
  • 真夏・真冬の外出による熱中症や低体温
  • 道に迷って長時間歩き続けることによる消耗

こうしたリスクは確かにあります。だからこそ、「歩かせないようにする」のではなく、「歩いても安全な環境をどう整えるか」を考えることが現実的です。

とはいえ、玄関の工夫や見守りの道具、夜間の対応といった具体的な対策は、それぞれ深く掘り下げたい大切なテーマです。この記事では触れきれないので、別の記事で詳しくお話しします。

大切なのは、不安をひとりで抱え込まないこと。そして、「止める」ことよりも「なぜ歩くのか」を理解し、「安全に歩ける環境」を周りと一緒に整えていくことです。

👨‍⚕️ もくもくポイント

介護をしていると、「もっとちゃんと見ていれば」と自分を責めてしまう瞬間が、どうしても出てきます。でも、現場で多くのご家族を見てきて思うのは、責めるべき人なんて一人もいない、ということです。不安になるのは、それだけ真剣に向き合っている証拠。どうか、ご自分を責めないでくださいね。

まとめ──「意味のない徘徊」はない。だから、できることがある

認知症の親に寄り添い、安全に歩ける環境を一緒に整える家族の水彩イラスト

認知症の徘徊について、大切なポイントを振り返ります。

まず、徘徊は「意味のない行動」ではありません。歩き回る裏には、トイレを探している、昔の習慣が残っている、不安で誰かを探している──そんな本人なりの切実な理由があることがほとんどです。冒頭の男性が「妻がいない」と探し歩いていたように、私たちには見えなくても、本人の中には筋の通った目的があります。

そして、徘徊をめぐる3つの誤解も解いてきました。徘徊は認知症以外でも起こりうること(誤解①)、認知症の中核症状ではなくBPSD=行動・心理症状であること(誤解②)、そして「治らない」のではなく、原因に目を向ければ減らせる可能性があること(誤解③)です。

「なぜ歩くのか」を理解しようとすること。それ自体が、対応の第一歩になります。「意味のない徘徊」だと思って見るのと、「この人には理由があるはずだ」と思って見るのとでは、関わり方がまったく変わってきます。

最後に、ご家族へ。目を離した隙に親が出て行ってしまっても、それはあなたの責任ではありません。一人で抱え込まず、ケアマネジャーや周りの手を借りながら、「安全に歩ける環境」を一緒に整えていきましょう。

📝 まとめ

  • ✅ 徘徊は「意味のない行動」ではなく、本人なりの切実な理由がある
  • ✅ 徘徊は認知症以外(せん妄など)でも起こる(誤解①)
  • ✅ 徘徊は中核症状ではなくBPSD。関わり方でやわらげられる(誤解②③)
  • ✅ 「止める」より「なぜ歩くのか」を理解し、安全に歩ける環境を整える
  • ✅ 目を離した隙の外出は家族の責任ではない。抱え込まず周りの手を借りる

具体的な対策──玄関の工夫や見守りの道具、夜間の対応については、別の記事で詳しくお話ししています。あわせて読んでみてください。

【ご注意】本記事は、理学療法士の資格を持つ筆者が在宅訪問の経験をもとに作成した情報提供を目的としたものです。個人の状態や環境によって適切な対応は異なります。医療・介護に関する判断は、担当の医師・ケアマネジャー・専門職にご相談ください。

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