📋 この記事でわかること
- ✔ 認知症の親に言ってはいけない言葉とその理由
- ✔ 感情の記憶が残るメカニズム
- ✔ 今日から使える声かけと接し方のコツ
- ✔ 家族が追い詰められないための考え方

最近、親に「さっき言ったでしょ」ってついつい言ってしまって…

その言葉、実は認知症の親にとって一番つらい言葉のひとつなんです。今日は現場で見てきた正しい接し方をお伝えします。
認知症の介護で、家族が一番悩むのが「どう接したらいいかわからない」という問題です。訪問リハビリに12年携わってきた中で、怒ってしまった後に自己嫌悪に陥る家族を何度も見てきました。この記事では、言ってはいけない言葉とその理由、そして今日から使える接し方を具体的にお伝えします。
認知症と物忘れの違いをまず理解しよう

認知症は「病気」、物忘れとは根本的に違う
「最近物忘れが多いだけじゃないの?」と思っている家族は少なくありません。しかし認知症と加齢による物忘れは、根本的に別物です。
加齢による物忘れは、朝ごはんのメニューを忘れる程度で、「忘れた」という自覚があります。一方、認知症は朝ごはんを食べたこと自体を忘れてしまいます。体験そのものが記憶に残らないのです。
認知症は脳の神経細胞が壊れていく病気です。本人が「覚えよう」と思っても覚えられない状態であり、意志や努力でどうにかなるものではありません。(Warren, 2021より)
本人も覚えたくても覚えられない
家族が「なんで忘れるの」と怒りたくなる気持ちは、痛いほどわかります。しかし本人は、忘れたくて忘れているわけではありません。
訪問リハビリで関わってきた中で、家族に認知症の仕組みをきちんと説明すると、「本当に覚えられないんだ」と初めて理解してくれる方がとても多くいました。その瞬間から、接し方がガラッと変わるのです。
理解することが、正しい接し方への第一歩です。
👨⚕️ もくもくポイント
認知症は病気です。本人も覚えたくても覚えられない状況にあります。「なんで忘れるの」と責める前に、まずその事実を知ることが正しい接し方への第一歩になります。
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認知症の親に言ってはいけない言葉

「さっき言ったでしょ」が禁句な理由
認知症の家族への接し方で、最もよく聞くNG言葉が「さっき言ったでしょ」です。訪問現場でも、家族から何度も耳にしてきた言葉です。
この言葉がなぜいけないのか。認知症の方は、さっきのことを本当に覚えていません。「覚えていないのに、覚えているはずだ」と責められる状況は、本人にとって理不尽以外の何物でもありません。
表面上は慣れた様子で聞き流しているように見えても、内心では深く傷ついている可能性があります。特に初期の方は、自分が忘れていることをある程度自覚しています。「なんで自分は忘れてしまうんだろう」という自己嫌悪に陥りやすい時期でもあるのです。
「なんで忘れるの」「しっかりして」も要注意
⚠️ 家族が無意識に使いがちなNG言葉
- 「なんで忘れるの?」
- 「しっかりしてよ」
- 「前はできてたのに」
- 「何度言えばわかるの?」
これらはすべて、本人の「できない」を責める言葉です。認知症は努力でどうにかなる問題ではないため、こうした言葉は本人の尊厳を傷つけるだけで、何の改善にもつながりません。
なぜその言葉が親を傷つけるのか

感情の記憶は最後まで残る
認知症が進行すると、昨日の出来事や人の名前を忘れていきます。しかし脳の中で感情をつかさどる部位は、記憶をつかさどる部位よりも遅くまで機能が保たれます。
アルツハイマー型認知症の研究では、否定的な感情体験がFAST(認知症の進行度評価)ステージ5まで長期にわたって記憶に残る可能性が示されています。(Okada & Matsuo, 2012より)
つまり、出来事の記憶が失われても、感情の記憶は残り続けるのです。「怒られた」「悲しかった」「怖かった」という感情だけが積み重なっていく状況は、本人のQOLを大きく損ないます。
怒られた出来事の内容は忘れても、「この人といると怖い」「この場所は嫌だ」という感情だけが残ります。それが介護拒否や不穏な行動につながることも少なくありません。(日本臨床衛生検査技師会, 2017より)
出典:日本臨床衛生検査技師会「認知症患者への対応」J-STAGE, 2017.
👨⚕️ もくもくポイント
出来事の記憶が失われても、感情の記憶は最後まで残ります。「怒られた」「悲しかった」という気持ちだけが積み重なっていかないよう、言葉を選ぶことが大切です。
初期は自己嫌悪に陥りやすい
認知症の初期は、自分が忘れていることをある程度自覚できる時期です。「また忘れてしまった」「なんで自分はこうなんだろう」という自己嫌悪が生まれやすい、実はとてもつらい時期でもあります。
そこに家族から「さっき言ったでしょ」「なんで忘れるの」という言葉が重なると、自己嫌悪はさらに深まります。訪問現場でも、初期の方が「自分がおかしくなっていくのがわかる」と涙をこぼす場面を何度も目にしてきました。
だからこそ初期のうちから、否定せず受け入れる接し方を意識することが大切です。(Warren, 2021より)
代わりに使える声かけと接し方のコツ

「そうだったね」で共感する
否定しない接し方の基本は、共感です。たとえ事実と違っていても、まず「そうだったね」「そうだよね」と受け止めることが大切です。
これはバリデーション療法の考え方とも一致しています。認知症の方の感情や現実を否定せず受け入れることで、協力的な行動が引き出されることが研究でも示されています。(Eggenberger et al., 2024より)
よくある場面別・声かけの言い換え例
「共感する」といっても、実際の場面でどう言えばいいか迷う方は多いです。訪問現場でよく出てくる3つのシーンで、具体的な言い換えを紹介します。
📍 「ご飯まだ食べていない」と言われたとき
❌ 「さっき食べたでしょ」
✅ 「お腹すいたね、もう少ししたら用意するね」
事実の訂正より、気持ちへの寄り添いを優先します。
📍 「薬飲んだっけ?」と不安そうなとき
❌ 「さっき飲んだじゃないの」
✅ 「お薬カレンダーを一緒に確認してみようか」
不安を受け止めながら、カレンダーという客観的な確認手段に誘導することで、本人も納得しやすくなります。
📍 「泥棒が入った」と言われたとき(物盗られ妄想)
❌ 「そんなはずない、自分で置いたんでしょ」
✅ 「それは心配だったね。なくなったものがあるの?私も一緒に探してみるね」
物盗られ妄想は認知症によく見られる症状のひとつです。否定すると感情的な対立に発展しやすいため、まず不安な気持ちを受け止め、一緒に行動することで落ち着いてもらうことが大切です。
徘徊や物盗られ妄想など行動面での変化が出てきた場合は、認知症の徘徊が心配な家族へ|GPSおすすめ機種と持たせ方も参考にしてください。
話し方・声のトーンも大切にする
言葉の内容と同じくらい、話し方そのものも重要です。訪問現場で私が意識しているのは、まずゆっくり話しかけることです。早口や強い口調は、それだけで相手を不安にさせてしまいます。
もうひとつ大切にしているのが、一度に伝えることを一つに絞ることです。「お薬を飲んで、着替えて、トイレに行って」と一気に伝えると、認知症の方は何から手をつければいいかわからなくなってしまいます。
「まずお薬を飲みましょう」と伝え、飲み終わったら「次はトイレに行きましょう」というように、一つひとつ区切って伝えることで、本人も動きやすくなります。
できることに目を向けて役割をつくる
リハビリの現場で大切にしている国際生活機能分類(ICF)という考え方があります。「できないこと」ではなく「今できること」に目を向けるアプローチです。
認知症になっても、できることはたくさんあります。洗い物をする、新聞をとってくる、花に水をやる。小さなことでも、本人が「自分はまだ役に立てる」と感じられる役割を家庭の中につくることがとても重要です。
訪問現場でも、家族が「これお願いできる?」と役割を渡すようになってから、本人の表情が明るくなったケースを何度も経験しています。できることを褒め、一緒にやることが、本人の自信と生きがいにつながります。
👨⚕️ もくもくポイント
「できないこと」より「今できること」に目を向けてみてください。家庭の中に小さな役割をつくるだけで、本人の表情がガラッと変わることがあります。
怒り・拒否が出たときの対応
認知症の方が突然怒り出したり、介護を拒否したりする場面は、家族にとって最もつらい瞬間のひとつです。
⚠️ やってしまいがちなNG対応
「なんで怒るの」と正面からぶつかったり、無理に説得しようとすると、感情的な対立がさらに激しくなります。怒りや拒否の多くは不安・混乱が原因なので、押し付けず一度引くことが大切です。
こうした場面では、いったんその場を離れるか、話題を変えることが有効です。怒りや拒否の多くは、不安や混乱からきているためです。
「そうだよね、嫌だよね」とまず気持ちを受け止めたうえで、少し時間をおいてから改めてアプローチする。このワンクッションが、現場でも効果的でした。
家族も完璧でなくていい

「正しく接しなければ」を手放す
ここまで読んで、「こんなに気をつけなければいけないのか」とプレッシャーを感じた方もいるかもしれません。しかし、家族だからといって常に完璧な接し方をしなければならない、ということはありません。
訪問現場でお世話になっている在宅医の先生とこんな話をしたことがあります。「家族だって感情がある。すべてを押さえつけていたら家族が壊れてしまう。ときには怒っていい。」と。
介護の専門家でも、認知症の方への対応に迷うことはあります。まして毎日一緒に生活している家族が、常に冷静に正しく接し続けることは不可能です。完璧を目指すのではなく、「今日はうまくできなかった、明日またやってみよう」という気持ちで続けていくことが大切です。
📝 訪問現場より
「どうしても親に怒ってしまう」と相談してくれたご家族がいました。一緒に話し方の工夫や対応を考え、実践してもらったところ、「最近、親が前より穏やかになった気がする」と話してくれました。
変わったのは親だけではなく、家族自身も「少し楽になった」と言っていたのが印象的でした。接し方を変えることは、本人のためだけでなく、介護する側の負担を減らすことにもつながります。
認知症ケアの研究でも、介護者への心理教育や支援が介護者の抑うつや負担感を有意に軽減することが示されています。家族自身のケアも、介護と同じくらい重要なのです。(Scerbe et al., 2023より)
👨⚕️ もくもくポイント
家族だって感情があります。完璧に接しなければと自分を追い詰めないでください。家族が元気でいることが、在宅介護を長く続けるための一番の条件です。
ひとりで抱え込まない相談先
家族だけで認知症介護を抱え込むことには限界があります。ひとりで頑張りすぎず、使えるサポートを早めに取り入れることが、長く介護を続けるための鍵になります。
✅ 困ったときの相談先
- ケアマネジャー:介護サービス全般の相談窓口
- 地域包括支援センター:介護・医療・福祉の総合相談窓口
- 認知症カフェ:同じ立場の家族と気持ちを共有できる場
- かかりつけ医:症状の変化や薬の相談
ひとりで悩まず、使えるサポートを積極的に活用してください。
離れて暮らす親の介護に悩んでいる方は、遠距離介護、何から始める?家族にできることを訪問PTが解説もあわせて参考にしてください。
📝 まとめ
- ✅ 認知症は病気。本人も覚えたくても覚えられない
- ✅ 「さっき言ったでしょ」などのNG言葉は感情の記憶として残り続ける
- ✅ 基本は共感。「そうだったね」と気持ちを受け止めることが大切
- ✅ ゆっくり・一つずつ・役割をつくるが接し方のコツ
- ✅ 家族も完璧でなくていい。困ったときはひとりで抱え込まず相談を
・Warren A. Preserved Consciousness in Alzheimer’s Disease and Other Dementias. Frontiers in Psychology, 2021.
・Okada A, Matsuo J. Emotional Memory in Patients with Alzheimer’s Disease. Case Reports in Psychiatry, 2012.
・日本臨床衛生検査技師会「認知症患者への対応」J-STAGE, 2017.
・Eggenberger et al. Communication skills training in dementia care: a systematic review. ScienceDirect, 2024.
・Scerbe et al. Digital tools for delivery of dementia education. PLOS ONE, 2023.
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