階段の上り下りが不安な高齢者へ|足の順番を変えるだけのコツ

階段の上り下りが不安な高齢女性が手すりにつかまって階段を上る様子 自宅リハビリ

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📋 この記事でわかること

  • ✔ 高齢者にとって、なぜ階段が危ないのか
  • ✔ 安全な上り下りの基本と、足を出す「順番」のルール
  • ✔ 膝や足腰が弱くなっても、階段を使い続けるためのコツ
もくもく

・理学療法士歴15年|訪問リハビリ12年|累計12,000件以上の訪問
・在宅生活の専門家:小さなお子さんから難病、高齢の方まで幅広くサポート
・現場目線の発信:現場で培った「長く・安全に自宅で過ごすための工夫」を公開中

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最近、母が階段を下りるのを怖がるようになって…。2階へ上がるのも億劫そうで、いっそ1階だけで生活させた方がいいのか悩んでいます。

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そのお気持ち、よく分かります。でも実は、上り下りで足を出す「順番」を変えるだけで、ぐっと楽になる方はとても多いんですよ。

こんにちは、もくもく先生です。訪問リハビリ歴12年の理学療法士として、これまで1万件以上のお宅で、高齢の方の階段の上り下りを見てきました。階段は「もう無理」とあきらめてしまいがちな場所ですが、ちょっとした工夫で「怖い場所」から「まだ使える場所」に変わります。膝が痛い方、片側に力が入りにくい方、なんとなく足腰が弱ってきた方――どなたにも役立つ内容です。この記事では、ご家族が今日からそばで手伝える、具体的なコツをお伝えします。

高齢者の転倒は、実は「階段」で多く起きています

自宅の階段の下で上を見上げる不安そうな高齢女性と見守る娘

高齢の方の事故は、住み慣れた自宅の中で数多く起きています。65歳以上の住宅内事故が起きた場所を見ると、居室に次いで階段が18.7%と2番目に多く報告されています。さらに、住宅内で起きた転落事故の43.3%、転倒事故の15.8%が階段で起きているというデータもあります。別の調べでも、高齢者の転倒のおよそ6割は自宅で起きており、階段や廊下はその主な発生場所のひとつとされています。階段が怖いのは、ひとたび転ぶと骨折など重いけがにつながりやすいからです。実際、骨折・転倒は、高齢者が介護を必要とする主な原因の一つに挙げられています。だからこそ「転ばせない工夫」が何より大切になります。中でも「下り」は、上りよりも動作が難しく、より慎重さが求められます。(下りが特に怖い理由は、別の記事でくわしくお話しします)

出典:健康長寿ネット(長寿科学振興財団)「高齢者の住宅内の事故」

出典:政府広報オンライン「たった一度の転倒で寝たきりになることも。転倒事故の起こりやすい箇所は?」

出典:厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査の概況」(介護の状況)

まず押さえたい、階段の上り下りの基本

高齢者が階段を安全に上り下りする基本(二足一段・足裏全体・手すり)の図解

順番のルールに入る前に、土台となる基本を確認しておきましょう。ここができているだけで、転倒のリスクはぐっと下がります。

あわてず「一段ずつ」を守る

高齢の方は、片足を次々に運ぶ上り方ではなく、両足を同じ段にそろえてから次へ進む「二足一段」が安全です。一段ごとに一度止まってかまいません。急がず、焦らず。時間がかかっても大丈夫です。後ろから急かさないこと、そして「ゆっくりでいいよ」と声をかけてあげることも、ご家族の大切な役割です。

足の裏はしっかり段に乗せる

つま先だけを段にかけると、体が不安定になり滑りやすくなります。足の裏全体をしっかり段の上に乗せることを意識してください。下りるときも、かかとから勢いよく下ろすのではなく、足裏全体でそっと段をとらえます。脱げやすいスリッパは避け、かかとのある靴や滑り止めの付いた室内履きにするだけでも、安定感は大きく変わります。

目線と姿勢を整える

足元ばかりを見て背中が丸まると、かえってバランスを崩しやすくなります。目線は、足元と2〜3段先を交互に確認するのがコツです。上るときは上体を軽く前に傾け、重心を階段の上側へ運ぶ意識を持つと安定します。反対に下りるときは、前のめりで突っ込むのも、怖がって上体を反らすのも危険です。背すじを軽く保ち、重心は足の真上からやや前に置いて、足元を一歩ずつ確かめながら下ろします。荷物は片手にまとめず、できればリュックなどで両手を空けておくと、手すりを使いやすくなります。

手すりは「必ず」使う

手すりがあるなら、いつも必ず使ってください。片手でも支えがあるだけで、体のふらつきは大きく減ります。公的機関も、階段や段差には手すりを設置するよう勧めています。手すりの選び方や後付けの方法については、別の記事でくわしくお伝えします。

出典:健康長寿ネット(長寿科学振興財団)「高齢者の住宅内の事故」

👨‍⚕️ もくもくポイント

階段の安全は、まず土台から。「二足一段でゆっくり」「足の裏は段にしっかり乗せる」「手すりは必ず使う」。この3つができているだけで、転倒のリスクはぐっと減ります。特別な力はいりません。

【この記事の核】「良い足から天国、悪い足から地獄」の順番ルール

階段は上りが良い足から・下りが悪い足からという足を出す順番ルールの図解

基本の上に、私が訪問現場で必ずお伝えするルールがあります。それが、足を出す「順番」です。合言葉は――「良い足から天国、悪い足から地獄」。少し縁起の悪い言い回しですが、一度で覚えられるので現場でよく使います。ご家族が横で「良い足からね」と声をかけるだけでも、ぐんと安全になります。

上りは「良い足(痛くない方)」から

階段を上るときは、痛くない・力の入る方の足を先に、一段上へ乗せます。その足で体を引き上げ、あとから痛い方の足を同じ段にそろえます。上(天国)へ向かうときは、良い足から。強い方の足に「体を持ち上げる役」を任せるので、弱い方の足に無理な力がかかりません。

下りは「悪い足(痛い方)」から

下りるときは、逆になります。痛い・弱い方の足を先に下の段へ下ろし、良い足は上の段に残して体を支えます。下(地獄)へ向かうときは、悪い足から。良い足を最後まで上の段に残すことで、いちばん不安定になりやすい下りの動作を、しっかり支えられます。実際、変形性膝関節症の女性では、下りる動作に自信が持てない人ほど、下りの速度が上りより落ちる傾向が報告されています。階段の上り下りのしやすさは、膝を伸ばす筋力とも関連しているとされます。下りが上りより難しく感じるのには、こうした理由もあるのです。

出典:神奈川県理学療法士会 学会誌「変形性膝関節症を有する女性患者の階段昇降速度と身体的・心理的因子の関連」

なぜ、この順番だと安全なの?

ポイントは、上りも下りも「体を支え、コントロールする役」を、いつも良い足に持たせている点です。順番を逆にすると、弱い方の足一本で全体重を支える一瞬が生まれます。そのわずかな瞬間が、ぐらつきや転倒の入り口になるのです。順番を変えるだけで、この危険な一瞬をなくせます。特別な道具も筋トレもいらず、今日から実践できるのが、このルールのいちばんの強みです。もし順番を間違えて怖がっている方がいたら、それは能力の問題ではなく、やり方を知らなかっただけ、ということも少なくありません。

左右の差がない・両足とも弱ってきた場合は?

ここまで「良い足・悪い足」とお伝えしましたが、片麻痺や片膝の痛みのように左右がはっきり分かれる方ばかりではありません。「どちらが良い足か分からない」「両足とも同じように弱ってきた」という方も多いはずです。その場合は、より力が入り踏ん張りやすいと感じる方、あるいは手すりを持てる方の足を”良い足”と考えてください。上りはその足から、下りは反対の足から――という原則は変わりません。迷うときは「怖くない・安定する」と感じる方から上る、と覚えておけば大丈夫です。

なお、この順番ルールは「手順を覚えて実行できる」ことが前提です。認知症などで順番を覚えておくのが難しい方の場合は、ご本人に暗記してもらうより、ご家族がそばで一段ごとに「次は良い足ね」と声をかけ、付き添って支えることを優先してください。無理に覚えさせようとすると、かえって混乱や焦りを生むことがあります。

👨‍⚕️ もくもくポイント

覚えることはたった一つ、「上りは良い足から、下りは悪い足から」。いつも良い足に“体を支える役”をさせるのが安全のコツです。ご家族は隣で「良い足からね」と一声かけてあげてください。それだけで、ぐんと安心です。

杖・手すりと「足運び」を連動させる

杖を使う方は、足の順番と杖の動きをそろえます。上りは「杖→良い足→悪い足」、下りは「杖→悪い足→良い足」の順です。杖は弱い方の足を助ける道具なので、良い方の手で持つのが基本です。手すりがある側では杖を無理に使わず、手すりを優先してかまいません。杖と手すりの両方があるときは、より安定する方を選びましょう。上るときは、杖の先を上の段のなるべく奥寄りに置くと、杖が滑り落ちにくく安全です。杖の選び方はこちらの記事でくわしく解説しています。

場面別・こんなときはどうする?

実際のお宅では、「手すりが片側にしかない」「外に手すりがない」といった場面がよくあります。順番ルールを、状況に合わせて応用してみましょう。

手すりが片側にしかないとき

理想は、下りるときに良い方の手で手すりを持てる向きです。上りと下りで持ち手が変わることもあるので、ご家族はどちら向きが安全かを一緒に確認してあげてください。手すりが弱い方の側にしかない場合は、無理をせず、そばで支える・付き添うことを優先します。可能であれば、反対側にもう一本手すりを足すことも検討しましょう。

外出先で手すりがないとき

駅や店先など、手すりのない階段では、壁がある側に体を寄せ、壁に手を軽く添えながら上り下りします。足の順番のルールは、手すりがなくても同じです。混雑した場所では、後ろの人に先に行ってもらい、あわてず自分のペースで進みましょう。エスカレーターやエレベーターが近くにあれば、無理に階段を選ばないという判断も大切です。

上りがどうしても辛いとき

膝の痛みが強い日は、無理に一段ずつ上がろうとせず、休みながらで大丈夫です。踊り場や途中で一呼吸おく、行き先を1階にまとめる日をつくるなど、その日の体調に合わせて調整しましょう。「できない日があるのは当たり前」と考えることが、長く続けるコツです。

こんな変化は、「年のせい」にせず早めに受診を

⚠️ これまで普通にできていた上り下りが急に難しくなった、片足に力が入らない・足を引きずる、強い痛みやしびれが続く――こうしたサインは、膝や腰だけでなく、脳や神経の病気が隠れていることもあります。「年のせい」と様子を見てしまわず、早めにかかりつけ医やリハビリの専門職に相談してください。階段で転んで頭を打った、立てないほど痛むといったときは、ためらわず受診を。

訪問現場からのエピソード

手すりにつかまり安心した表情で階段を上る80代の高齢女性

📝 訪問現場より

80代で一人暮らしの女性で、変形性膝関節症をお持ちでした。調子の悪い日は階段がかなり辛く、「2階へ上がるのが大変になってきたから、そろそろ1階で寝ようかしら」と、寝室をあきらめかけていました。上り下りを見せてもらうと、痛い方の足から上り、痛い方の足から下りていました。そこで「上りは良い足から、下りは悪い足から」と、足を出す順番だけを変えてもらいました。すると、あれほど辛そうだった上り下りが、痛みをほとんど感じずにできるようになったのです。

ご本人は「こんなに楽な方法があるなら、もっと早く知りたかった」と驚いていました。おかげで2階の寝室もあきらめずに済み、これまで通りの暮らしを続けられました。順番ひとつで、その方の「生活できる範囲」そのものを守れた一例です。離れて暮らすご家族も、この順番を共有しておけば、帰省時に同じ声かけができます。

足元と住まいの環境も見直す

最後に、足元と住まいの環境も整えましょう。階段には、滑り止めマットや段差のふちに貼る「段鼻テープ」(数千円程度)を使うと、滑りやつまずきを防げます。段の先が見えにくいと踏み外しの原因になるので、明るい色のテープで縁を目立たせたり、足元を照らす照明を足したりするのも効果的です。夜間にトイレへ立つときなど、暗がりでの上り下りは特に危険なので、人感センサー付きのライトがあると安心です。靴も、脱げにくく滑りにくいものを選ぶと安心です。段差が大きい、手すりが付けられないといった場合は、住宅改修(リフォーム)も選択肢になります。

👨‍⚕️ もくもくポイント

足元と明るさの見直しも、転倒予防の近道です。「段のふちに滑り止め・段鼻テープ」「足元を明るく(人感センサーライト)」「脱げにくく滑りにくい履物」。数千円でできる工夫から始めてみましょう。

まとめ

📝 まとめ

  • ✅ 上りは「良い足」から、下りは「悪い足」から
  • ✅ 左右に差がなければ、踏ん張りやすい方を“良い足”に
  • ✅ 二足一段・足裏全体で、手すりは必ず使う
  • ✅ ご家族は隣で「良い足からね」と声かけを
  • ✅ 足元の滑り止め・明るさなど、環境の工夫も合わせて

【ご注意】本記事は、理学療法士の資格を持つ筆者が在宅訪問の経験をもとに作成した情報提供を目的としたものです。個人の状態や環境によって適切な対応は異なります。医療・介護に関する判断は、担当の医師・ケアマネジャー・専門職にご相談ください。

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