※本記事にはアフィリエイト広告が含まれています。
📋 この記事でわかること
- ✔ 認知症の「物盗られ妄想」がなぜ起きるのか
- ✔ なぜ一番世話をしている家族ほど疑われてしまうのか
- ✔ やってはいけないNG対応と、現場で効果のあった対応
- ✔ 疑われ続ける介護者が「壊れないため」に大切なこと
- ✔ 物盗られ妄想はいつまで続くのか/受診の目安

また『財布を盗ったでしょ』って母に責められて…。一番世話してるのは私なのに、どうして私ばかり疑われるんでしょうか。もう情けなくて、つらいんです。

それは本当にお辛いですよね。でも、まず知ってほしいことがあります。あなたが一番疑われるのは、あなたが嫌われたからではなく、むしろ一番そばにいるからなんです。
「財布を盗った」「お金がなくなった」――認知症のご家族から毎日のように疑われ、否定しても納得してもらえず、ケンカになってしまう。一番介護を頑張っている人ほど、この苦しさを一人で抱え込みがちです。
私は訪問リハビリで12年間、認知症の方とそのご家族のお宅に伺ってきました。物盗られ妄想で疲れ果てたご家族を、現場で何度も見てきています。この記事では、なぜ世話をする人が標的になるのかという仕組みから、介護者自身が壊れないための具体策まで、現場の経験を交えてお伝えします。
認知症の物盗られ妄想とは?なぜ「盗られた」と思い込むのか

「物盗られ妄想」とは、認知症によって起こる被害妄想の一つで、大切な物を「誰かに盗られた」と思い込んでしまう症状です。盗られたと訴える対象は、財布やお金、通帳、宝石など、財産に関わる物が多いのが特徴です。
本人にとっては、これは「思い込み」ではなくまぎれもない現実です。だからこそ、家族がいくら「盗ってないよ」と言っても納得してもらえません。ここを最初に押さえておくことが、対応の第一歩になります。
物盗られ妄想は「BPSD」の一つ
認知症の症状は、大きく2つに分けられます。
ひとつは、記憶障害や見当識障害といった、脳の機能低下から直接起こる「中核症状」。もうひとつが、その中核症状を土台に、本人の性格・不安・環境などが絡み合って現れる「BPSD(行動・心理症状)」です。物盗られ妄想は、後者のBPSDにあたります。
BPSDは認知症の方すべてに必ず出るわけではありません。ただ、物盗られ妄想はアルツハイマー型認知症を中心に多くのケースで報告されていて、決して珍しい症状ではありません。「うちだけがおかしいのでは」と思い詰める必要はない、ということです。
なぜ「盗られた」と思い込むのか(記憶障害+不安)
では、なぜ「自分でしまった物」を「盗られた」と感じてしまうのでしょうか。
仕組みはこうです。まず記憶障害によって、自分が物をしまった場所を思い出せなくなります。財布をどこに置いたか分からない。ここまでは、誰にでも起こりうる「もの忘れ」と地続きです。
問題はその先です。健康な人なら「どこかに置き忘れたかな」と考えますが、認知症の方の場合、「自分がしまった」という記憶そのものが抜け落ちているため、「無くなった=誰かが盗った」という結論に飛びやすくなります。
認知症医療の研究でも、何らかの記憶障害によって「物を置いた場所がわからなくなり」、そこに不安や人間関係といった心理社会的な要因が加わって「盗られた」という妄想になる、と説明されています(池田, 2004)。
出典:池田学(2004)「アルツハイマー病における物盗られ妄想と記憶障害の関係について」高次脳機能研究24巻2号
つまり、物盗られ妄想の根っこにあるのは「記憶障害+不安」です。本人は意地悪で言っているわけでも、家族を困らせたいわけでもありません。記憶の空白を、不安が「盗られた」という物語で埋めてしまっている――そう理解すると、次の章からの対応がぐっと腑に落ちるはずです。
👨⚕️ もくもくポイント
物盗られ妄想は「記憶障害+不安」で起こります。本人にとって「盗られた」は嘘や意地悪ではなく、まぎれもない現実です。まずここを理解することが、すべての対応の出発点になります。
なぜ一番世話している家族ほど疑われるのか

物盗られ妄想で、いちばん多い家族の悩み。それは「自分が一番世話をしているのに、なぜ自分ばかり疑われるのか」という、やりきれなさです。
毎日ご飯を作り、薬を飲ませ、トイレに付き添い、一番尽くしている。それなのに「あんたが盗ったでしょう」と名指しされる。これほど報われない気持ちはありません。
でも、ここで最初に知っておいてほしいことがあります。
あなたが疑われるのは、嫌われたからではありません。むしろ「一番そばにいるから」です。
「身近な人」ほど疑いの対象になりやすい
物盗られ妄想は、家族など身近な人へ疑いの目が向けられやすい、という傾向があります(大塚製薬 すまいるナビゲーター)。赤の他人ではなく、毎日顔を合わせている人が標的になりやすいのです。
出典:大塚製薬 すまいるナビゲーター「認知症による物盗られ妄想の原因や対策と接し方」
なぜ、よりによって一番世話をしている人なのか。私が現場で見てきた感覚で説明させてください。
理由はシンプルで、接触する回数が圧倒的に多いからです。財布が見当たらない、という不安が湧いたその瞬間、本人の目の前にいて、記憶に残っているのは「いつもそばにいる人」です。週に1回来るヘルパーや、たまに顔を出す親戚ではなく、さっきも部屋に出入りしていた、あなたなのです。
つまり、「疑われる=近くにいる」がほぼイコールになっている。これは、あなたの人柄が嫌われた結果ではなく、接触の量がそのまま疑いの量になっているだけなんです。
📝 訪問現場より
私が訪問していたあるお宅でも、ご本人は来る人来る人に「娘が財布をどこかにやってしまう」と訴えていました。その場にいない娘さんを、外から来た私たちに向かって”犯人”にしてしまうのです。
一番近くで支えている娘さんだからこそ、本人の頭の中で真っ先に思い浮かんでしまう。皮肉な構図ですが、これが現実でした。
娘だけでなく「嫁」も標的になりやすい
疑われるのは実の娘や息子だけではありません。むしろ私の現場感覚では、同居しているお嫁さんが「あなたが盗ったでしょう」と疑われるケースがとても多いように感じます。
はっきりした理由は分かっていませんが、二つの要素が重なっているのだと考えられます。一つは、ここまで述べた接触の量。同居のお嫁さんは世話の中心で、一番そばにいます。もう一つは、血縁ではないことが影響している側面もあるようです。認知症では新しい記憶から失われていくため、「お嫁さんは家族」という、後から育まれた関係の記憶が薄れ、昔の感覚が前に出てしまうことがあると言われています。その結果、実の子よりも警戒の対象になりやすいのです。
「一番尽くしているのに、他人扱いされて疑われる」――お嫁さんの立場は、とりわけ報われなさが強くなります。でも、これもあなたの人柄が否定されたのではなく、近くで支えている人だからこそ起きていることです。
ただ、これは決してご本人の本心ではありません。あなたを嫌いになったのでも、他人だと突き放しているのでもなく、病気によって新しい記憶から薄れていっているだけです。長年あなたが築いてきた信頼は、本人の奥にちゃんと残っています。
「あなたが嫌われたわけではない」
この仕組みを知ってほしいのは、介護者であるあなた自身を守るためです。
「あんたが盗った」と言われ続けると、どんなに冷静な人でも心が削られます。「こんなに尽くしているのに」「私のこと、そんなふうに見ていたのか」と、自分を責めたり、相手を恨みそうになったりします。
でも、もう一度言います。それは病気がそうさせているのであって、あなたへの本心ではありません。 一番疑われるのは、一番近くで支えている証拠でもあるのです。
もちろん、頭で理解できても、感情はそう簡単に追いつきません。それでいいのです。「仕組みとしてはそういうものなんだ」と知っておくだけで、責められたときの心のダメージは少しだけ軽くなります。この”少しだけ”が、長い介護では効いてきます。
👨⚕️ もくもくポイント
あなたが疑われるのは、嫌われたからではなく「一番そばにいるから」です。接触の量が、そのまま疑いの量になっているだけ。これは現場で見てきた事実です。自分を責めないでください。
物盗られ妄想で家族がやってはいけないNG対応
ここからは具体的な対応の話に入ります。まず「やってはいけないこと」から押さえましょう。良かれと思ってやりがちなのに、かえって症状を悪化させてしまう対応があります。
NG①:頭ごなしに否定する
いちばんやってしまいがちなのが、「盗ってないよ」「そんなはずないでしょ」と真っ向から否定することです。
気持ちは痛いほど分かります。事実ではないのですから、否定したくなって当然です。でも、本人にとって「盗られた」はまぎれもない現実です。それを頭から否定されると、「どうして分かってくれないんだ」「やっぱりこの人が盗ったから、かばっているんだ」と、かえって疑いを強めてしまうことがあります。
否定は、本人を安心させるどころか、不安と敵意を煽ってしまう。逆効果になりやすい対応の代表格です。
NG②:問い詰める・説得しようとする
「どこに置いたか思い出してみて」「さっき自分でしまったでしょう」と、正論で説得しようとするのもNGです。
記憶障害で「しまった事実」そのものが抜け落ちているので、本人にはどう頑張っても思い出せません。思い出せないことを問い詰められると、本人は追い詰められ、よけいに混乱して不安が強まります。論理で勝とうとしないことが大切です。
NG③:感情的に言い返す・反論する
毎日繰り返されると、こちらも人間ですから、つい声を荒げたり言い返したりしてしまいます。これも、その場をさらにこじらせます。
ただ――ここは強調しておきたいのですが、感情的になってしまう自分を責める必要はありません。プロのヘルパーや施設職員が冷静でいられるのは、仕事として割り切れる距離があるからです。24時間、肉親として向き合っている家族が感情的になるのは、むしろ自然なことです。
だからこそ、「家族だけで完璧に対応しよう」と抱え込まないこと。これが後の章でお伝えする「介護者が壊れないために」の話につながっていきます。
👉 あわせて読みたい
現場で効果のあった対応のコツ

NG対応の逆をいけば、対応の方向性が見えてきます。ポイントは「否定しない・受け止める・一緒に動く」です。現場で実際に効果のあったやり方を紹介します。
✅ 効果的な対応の3原則
- 頭から否定しない
- 「困っている気持ち」を受け止める
- 本人と一緒に動く(一緒に探す)
まずは否定せず、訴えを受け止める
「盗られた」と言われたら、まずは否定せずに耳を傾けます。「そう、財布が見当たらないのね」と、困っている気持ちにそのまま寄り添う。
ここで大事なのは、嘘をつく必要はないということです。「私が盗ってないよ」と自分の潔白を証明しにいくのではなく、「それは困ったね、一緒に探そうか」と、本人の”困っている状況”の側に立つ。たとえその場しのぎでも、本人が「分かってもらえた」と感じられれば、それで十分です。
「一緒に探す」で本人に見つけてもらう
受け止めたら、次は一緒に探します。このとき理想なのは、本人自身に見つけてもらうことです。
家族が先に見つけて「ほら、ここにあったでしょ」と差し出すと、「あんたが戻したんだ」と、かえって犯人にされてしまうことがあります。そうではなく、本人が自分の手で見つけられるようにそっと誘導する。「こっちの引き出しは見てみた?」と、見つかりそうな場所へ自然に導くイメージです。
📝 訪問現場より
私が訪問していたお宅でも、ご本人が「財布がない」と言うたびに、リハビリの時間に一緒に探したことが何度もありました。
見つかればその場は落ち着いて、ほっとされる。これを繰り返していました。
落ち着いたら、別の話題にそらす
物が見つかって気持ちが落ち着いたら、「盗られた物」から意識をそっと離していきます。お茶を勧める、好きな話を振る、別の作業に誘う。注意が他に向けば、妄想から気持ちが離れやすくなります。
日常で「役割」を持ってもらう
起きた妄想への対応とは別に、普段から本人の不安を減らしておくことも、地味ですが効いてきます。物盗られ妄想の根っこには「記憶障害+不安」があるからです。
現場で効果を感じたのは、本人に役割を持ってもらうことです。今の高齢女性は、長年家事を担ってきた方がほとんど。今は娘さんやお嫁さんがやっている家事を、少しだけ手伝ってもらうのです。洗濯物をたたむ、野菜の皮をむく。男性なら庭仕事や新聞を取りに行くなど、その方が長年担ってきたことなら何でも構いません。慣れた作業で「自分はまだ役に立っている」と感じられると、気持ちが落ち着き、不安からくる妄想も出にくくなります。
お金については、通帳や現金を家族が預かるのも一つの手です。ただし、取り上げられたと感じてかえって不安が強まる方もいるので、ここは本人の様子を見ながら、人によって判断してください。
「探す前提」で環境を整える
ただ、ここまで読んで「毎回そんな丁寧に対応するのは無理だ」と感じた方も多いと思います。その通りです。
先ほどのお宅でも、見つけて落ち着いても、ご本人がまた別の場所に財布をしまうので、同じことが何度も繰り返されました。一回うまく対応できても、根本の症状が変わるわけではない。「その場しのぎを毎日続けるしんどさ」こそが、家族を疲れさせる正体です。
だからこそ、毎回ゼロから探すのではなく、「探しやすくしておく」工夫が効いてきます。財布の定位置を決める、よく置く場所を家族が把握しておく。こうした環境づくりが、対応の消耗を減らします。
この「環境の工夫」を突き詰めた先に、私が実際に提案したある方法があります。それは次の章の体験談でお話しします。
訪問現場からのエピソード

ここまでお伝えしてきた対応を、実際の現場でどう積み重ねていったか。私が訪問していたあるお宅のケースを紹介します。
来る人来る人に「娘が盗った」と訴える
そのお宅では、認知症のお母様が「財布がない」と頻繁に訴えていました。実際には、ご自分でどこかにしまっているのですが、しまった場所が分からなくなってしまう。そして「娘がどこかにやってしまう」と、来る人来る人に話していました。
私が訪問でお邪魔したときにも、その場にいない娘さんを”犯人”として私たちに訴える。一番世話をしている娘さんが、頻繁にこれを言われて困り果てていました。リハビリの時間に一緒に財布を探したことも、何度もありました。
「定位置」も「見える化」も、続かなかった
そこでまず提案したのが、王道の環境づくりです。
最初に、財布の定位置を決めることを娘さんと相談しました。次に、中身が外から見えるように、透明なケースに入れる工夫も試しました。「どこにあるか一目で分かれば、無くなったと思わずに済むのでは」という狙いです。
ところが――これが続きませんでした。ご本人が、決めた定位置とは違う場所に、自分で財布を置いてしまうのです。透明ケースにしても、結局あちこちに移動してしまう。そのたびに「財布がない=娘が盗った」となり、娘さんは毎回、長い時間をかけて家じゅうを探すことになっていました。症状そのものは変わらないので、王道の工夫だけでは追いつかなかったのです。
「探す負担」をテクノロジーで消す
そこで発想を変えました。「しまう場所をコントロールする」のをあきらめて、「どこにあっても探せる」ようにするという方向です。
具体的には、AppleのAirTagのような、場所を感知できる小さなセンサーを財布の中に入れておき、娘さんのスマホから財布の位置を探せるようにしました。
結果はどうだったか。ご本人の症状自体は変わりません。相変わらず、いろいろな場所に財布を置いてしまいます。でも、「盗られた」と言われたときに、娘さんがスマホですぐに財布を探し出せるようになりました。家じゅうを何十分もかけて探し回る、あの消耗がなくなったのです。
🔖 私が実際に財布へ入れて使ったのはこれ(AirTag)
※利用にはiPhone(iOS端末)が必要です。人の居場所の追跡ではなく、財布など「持ち物」を探す用途で使います。
ちなみにAirTagは「物」を探す道具ですが、認知症の親の様子そのものを離れて見守りたいときは、専用の見守りセンサーという選択肢もあります。日中に目を離す時間や、離れて暮らす場合の備えとして、見守りセンサーで認知症の変化に早く気づく方法もあわせてご覧ください。
このエピソードが教えてくれること
このケースのポイントは、「症状を治そうとしなかった」ことです。
物盗られ妄想そのものは、なかなか消えません。本人が物をしまって場所を忘れる、という行動も変わりません。それを無理に変えようとすると、家族が消耗します。
そうではなく、「変えられない症状」はそのままに、「家族の負担」だけを減らす。 今は、こうした便利な道具が手の届く価格で手に入る時代です。「探す」という一点に絞ってテクノロジーを使うだけで、家族の毎日は驚くほど軽くなります。
頑張って症状と闘うより、上手にラクをする道具を取り入れる。これも立派な、現場で効果のあった対応のひとつです。
👨⚕️ もくもくポイント
変えられない「症状」と闘うのではなく、変えられる「家族の負担」を減らす。AirTagのような道具で”探す消耗”を手放すだけで、毎日は驚くほど軽くなります。上手にラクをするのも、立派な対応です。
疑われ続ける介護者が「壊れないため」に

ここまで本人への対応をお伝えしてきましたが、この章だけはあなた自身のための話です。物盗られ妄想の対応で本当に大切なのは、本人のケアと同じくらい、介護しているあなたが潰れないことだからです。
毎日「泥棒」と言われ続ければ、誰だって心が削れます。「もう情けない」「いつまで続くんだろう」と限界を感じるのは、あなたが弱いからではありません。それだけ過酷な状況に、一人で耐えているということです。
一人で抱え込まない・間に人を入れる
まず一番に伝えたいのは、家族だけで抱え込まないことです。
物盗られ妄想は、特定の人に疑いが集中しがちです。すると、その人だけが消耗していくだけでなく、「あの人がいるときばかり物が無くなる」と、他の家族からも誤解されて孤立してしまう危険があります。一番頑張っている人が、一番追い詰められる。これが物盗られ妄想の怖いところです。
だからこそ、間に人を入れてください。他のご家族に状況を共有する、ケアマネジャーに相談する、デイサービスや訪問介護を利用して、本人と接する人をあなた一人に集中させない。接触する人が分散すれば、疑いも分散します。あなたが少し後ろに下がれる時間を作ることが、何よりの対策です。
物理的に「距離を置く」ことは逃げではない
疑いの目が自分にばかり向くときは、思い切って少し距離を置くことも検討してください。
「介護を投げ出すみたいで罪悪感がある」と感じるかもしれません。でも、これは逃げではありません。あなたが倒れたら、介護そのものが続かなくなります。 デイサービスに通ってもらっている間に好きなことをする、たまには他の家族に任せて家を空ける。そうやって自分を回復させる時間は、介護を続けるために必要な投資です。
実際、認知症の介護現場では、疑われることで疲れ果てた家族が「もう手伝いたくない」と離れていってしまう例も報告されています(認知症の人と家族の会)。そうなる前に、意識的に休む。早めに距離を取ることは、家族関係を壊さないためにも大切です。
出典:認知症の人と家族の会「物盗られ妄想がひどくなってきた/姉たちが手伝いをやめると言う」
「自分を責めない」ことが最大のケア
最後にもう一度。あなたが疑われるのは、あなたが一番そばで支えている証拠です。決して、あなたの人間性が否定されたわけではありません。
うまく対応できなくても、感情的になってしまっても、それはあなたが冷たいからではなく、それだけ近くで必死に向き合っているからです。自分を責めないこと。これが、長い介護を生き抜くための最大のセルフケアです。
つらいときは、家族会や認知症カフェで同じ経験をした人に話を聞いてもらう、ケアマネジャーに気持ちを吐き出す。一人で背負わない方法は、必ずあります。
👨⚕️ もくもくポイント
一人で抱え込まないこと。間に人を入れれば、接触が分散し、疑いも分散します。距離を置くのは逃げではなく、介護を続けるための投資です。あなたが倒れないことが、最優先です。
では、いつまで続くのか・受診の目安を見ていきましょう。
物盗られ妄想はいつまで続く?受診の目安
毎日疑われ続けていると、「これがいつまで続くのか」という先の見えなさが、何よりつらいものです。終わりが見えれば耐えられることも、いつ終わるか分からないと、心が持ちません。ここでは経過の見通しと、受診を考える目安をお伝えします。
いつまで続く?経過の見通し
まず知っておいてほしいのは、物盗られ妄想は多くの場合、ずっと続くわけではないということです。
医療情報では、アルツハイマー型認知症で妄想が出現するピークは、発症からおよそ3〜4年とされています(メディカルノート)。つまり、認知症が進行して時期を過ぎると、物盗られ妄想自体は自然と落ち着いてくることが多いのです。
出典:メディカルノート「アルツハイマー病の物盗られ妄想とは」
もちろん個人差は大きく、「○年で必ず終わる」と断言はできません。それでも、「これは一生続くものではなく、ある時期に強く出る症状なんだ」と知っておくだけで、今の状況の受け止め方は変わってくるはずです。出口のないトンネルではない、ということです。
受診を考える目安
次のような場合は、早めに専門医(かかりつけ医、もの忘れ外来、精神科など)への相談を検討してください。
⚠️ こんなときは早めに受診を
- 妄想が強く、本人が不安で夜も眠れない状態が続いている
- 興奮が強い、または暴言・暴力をともなうなど、家族だけでは対応が難しくなっている
- 介護している家族の心身が、限界に近づいている
薬によって妄想や興奮が和らぐケースもあります。「薬に頼るのは抵抗がある」と感じる方もいますが、本人と家族の両方が穏やかに過ごせるなら、それは前向きな選択です。
そしてもう一つ。受診は「本人のため」だけでなく「家族のため」でもあります。 専門職という相談相手ができること自体が、抱え込んできた家族にとって大きな支えになります。
まだ受診していない・本人が拒否する場合
「そもそもまだ認知症の診断を受けていない」「本人が病院を嫌がる」というケースもあります。
物盗られ妄想がきっかけで、初めて認知症が分かることも少なくありません。早い段階で分かれば、薬やリハビリで進行を緩やかにできる可能性も広がります。本人が受診を拒む場合は、無理に説得しようとせず、まず地域包括支援センターに相談してみてください。家族だけで動かず、公的な窓口を入り口にするのが、いちばん現実的です。
👉 あわせて読みたい
まとめ|「疑われるあなた」を、まず守ってほしい
認知症の物盗られ妄想について、原因から対応、そして介護者自身を守る視点までお伝えしてきました。最後に要点を整理します。
📝 まとめ
- ✅ 物盗られ妄想は「記憶障害+不安」で起こる。本人にとっては現実であり、意地悪で言っているわけではない
- ✅ 一番世話している人ほど疑われるのは、接触が多いから。あなたが嫌われたのではなく、一番そばにいる証拠
- ✅ NG対応は「否定・説得・感情的な反論」。本人の不安を煽り、逆効果になりやすい
- ✅ 効果的な対応は「否定せず受け止め、一緒に探す」。本人自身に見つけてもらうのがコツ
- ✅ 症状は治そうとせず、家族の負担を減らす。AirTagのような道具で「探す消耗」は手放せる
- ✅ 介護者は一人で抱え込まない。間に人を入れ、距離を取り、自分を責めないこと
- ✅ ピークは発症から3〜4年とされ、一生は続かない。つらいときは受診や地域包括支援センターへ
物盗られ妄想の対応というと、つい「本人をどうなだめるか」に意識が向きます。でも、私が現場で一番お伝えしたいのは、疑われ続けているあなた自身を、まず守ってほしいということです。
あなたが疑われるのは、一番近くで支えている人だからです。それは責められることではなく、本来なら一番ねぎらわれるべきことです。症状とまっすぐ闘うのではなく、道具に頼り、人に頼り、上手に力を抜く。そうやってあなたが穏やかでいられることが、巡り巡って本人にとっても一番いい環境になります。
一人で抱え込まないでください。あなたを支えてくれる人や仕組みは、必ずあります。
・池田学(2004)「アルツハイマー病における物盗られ妄想と記憶障害の関係について」高次脳機能研究24巻2号
・大塚製薬 すまいるナビゲーター「認知症による物盗られ妄想の原因や対策と接し方」
・認知症の人と家族の会「物盗られ妄想がひどくなってきた/姉たちが手伝いをやめると言う」
・メディカルノート「アルツハイマー病の物盗られ妄想とは」


コメント