認知症の物盗られ妄想への対応|なぜ一番世話する人が疑われるのか

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📋 この記事でわかること

  • ✔ 認知症の「物盗られ妄想」がなぜ起きるのか
  • ✔ なぜ一番世話をしている家族ほど疑われてしまうのか
  • ✔ やってはいけないNG対応と、現場で効果のあった対応
  • ✔ 疑われ続ける介護者が「壊れないため」に大切なこと
  • ✔ 物盗られ妄想はいつまで続くのか/受診の目安
もくもく

・理学療法士歴15年|訪問リハビリ12年|累計12,000件以上の訪問
・在宅生活の専門家:小さなお子さんから難病、高齢の方まで幅広くサポート
・現場目線の発信:現場で培った「長く・安全に自宅で過ごすための工夫」を公開中

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家族
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また『財布を盗ったでしょ』って母に責められて…。一番世話してるのは私なのに、どうして私ばかり疑われるんでしょうか。もう情けなくて、つらいんです。

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それは本当にお辛いですよね。でも、まず知ってほしいことがあります。あなたが一番疑われるのは、あなたが嫌われたからではなく、むしろ一番そばにいるからなんです。

「財布を盗った」「お金がなくなった」――認知症のご家族から毎日のように疑われ、否定しても納得してもらえず、ケンカになってしまう。一番介護を頑張っている人ほど、この苦しさを一人で抱え込みがちです。

私は訪問リハビリで12年間、認知症の方とそのご家族のお宅に伺ってきました。物盗られ妄想で疲れ果てたご家族を、現場で何度も見てきています。この記事では、なぜ世話をする人が標的になるのかという仕組みから、介護者自身が壊れないための具体策まで、現場の経験を交えてお伝えします。

  1. 認知症の物盗られ妄想とは?なぜ「盗られた」と思い込むのか
    1. 物盗られ妄想は「BPSD」の一つ
    2. なぜ「盗られた」と思い込むのか(記憶障害+不安)
  2. なぜ一番世話している家族ほど疑われるのか
    1. 「身近な人」ほど疑いの対象になりやすい
    2. 娘だけでなく「嫁」も標的になりやすい
    3. 「あなたが嫌われたわけではない」
  3. 物盗られ妄想で家族がやってはいけないNG対応
    1. NG①:頭ごなしに否定する
    2. NG②:問い詰める・説得しようとする
    3. NG③:感情的に言い返す・反論する
  4. 現場で効果のあった対応のコツ
    1. まずは否定せず、訴えを受け止める
    2. 「一緒に探す」で本人に見つけてもらう
    3. 落ち着いたら、別の話題にそらす
    4. 日常で「役割」を持ってもらう
    5. 「探す前提」で環境を整える
  5. 訪問現場からのエピソード
    1. 来る人来る人に「娘が盗った」と訴える
    2. 「定位置」も「見える化」も、続かなかった
    3. 「探す負担」をテクノロジーで消す
    4. このエピソードが教えてくれること
  6. 疑われ続ける介護者が「壊れないため」に
    1. 一人で抱え込まない・間に人を入れる
    2. 物理的に「距離を置く」ことは逃げではない
    3. 「自分を責めない」ことが最大のケア
  7. 物盗られ妄想はいつまで続く?受診の目安
    1. いつまで続く?経過の見通し
    2. 受診を考える目安
    3. まだ受診していない・本人が拒否する場合
  8. まとめ|「疑われるあなた」を、まず守ってほしい

認知症の物盗られ妄想とは?なぜ「盗られた」と思い込むのか

財布が見つからず不安そうに引き出しを探す認知症の高齢女性

「物盗られ妄想」とは、認知症によって起こる被害妄想の一つで、大切な物を「誰かに盗られた」と思い込んでしまう症状です。盗られたと訴える対象は、財布やお金、通帳、宝石など、財産に関わる物が多いのが特徴です。

本人にとっては、これは「思い込み」ではなくまぎれもない現実です。だからこそ、家族がいくら「盗ってないよ」と言っても納得してもらえません。ここを最初に押さえておくことが、対応の第一歩になります。

物盗られ妄想は「BPSD」の一つ

認知症の症状は、大きく2つに分けられます。

ひとつは、記憶障害や見当識障害といった、脳の機能低下から直接起こる「中核症状」。もうひとつが、その中核症状を土台に、本人の性格・不安・環境などが絡み合って現れる「BPSD(行動・心理症状)」です。物盗られ妄想は、後者のBPSDにあたります。

BPSDは認知症の方すべてに必ず出るわけではありません。ただ、物盗られ妄想はアルツハイマー型認知症を中心に多くのケースで報告されていて、決して珍しい症状ではありません。「うちだけがおかしいのでは」と思い詰める必要はない、ということです。

なぜ「盗られた」と思い込むのか(記憶障害+不安)

では、なぜ「自分でしまった物」を「盗られた」と感じてしまうのでしょうか。

仕組みはこうです。まず記憶障害によって、自分が物をしまった場所を思い出せなくなります。財布をどこに置いたか分からない。ここまでは、誰にでも起こりうる「もの忘れ」と地続きです。

問題はその先です。健康な人なら「どこかに置き忘れたかな」と考えますが、認知症の方の場合、「自分がしまった」という記憶そのものが抜け落ちているため、「無くなった=誰かが盗った」という結論に飛びやすくなります

認知症医療の研究でも、何らかの記憶障害によって「物を置いた場所がわからなくなり」、そこに不安や人間関係といった心理社会的な要因が加わって「盗られた」という妄想になる、と説明されています(池田, 2004)。

出典:池田学(2004)「アルツハイマー病における物盗られ妄想と記憶障害の関係について」高次脳機能研究24巻2号

つまり、物盗られ妄想の根っこにあるのは「記憶障害+不安」です。本人は意地悪で言っているわけでも、家族を困らせたいわけでもありません。記憶の空白を、不安が「盗られた」という物語で埋めてしまっている――そう理解すると、次の章からの対応がぐっと腑に落ちるはずです。

👨‍⚕️ もくもくポイント

物盗られ妄想は「記憶障害+不安」で起こります。本人にとって「盗られた」は嘘や意地悪ではなく、まぎれもない現実です。まずここを理解することが、すべての対応の出発点になります。

なぜ一番世話している家族ほど疑われるのか

物盗られ妄想で世話をする家族を疑う認知症の高齢女性

物盗られ妄想で、いちばん多い家族の悩み。それは「自分が一番世話をしているのに、なぜ自分ばかり疑われるのか」という、やりきれなさです。

毎日ご飯を作り、薬を飲ませ、トイレに付き添い、一番尽くしている。それなのに「あんたが盗ったでしょう」と名指しされる。これほど報われない気持ちはありません。

でも、ここで最初に知っておいてほしいことがあります。

あなたが疑われるのは、嫌われたからではありません。むしろ「一番そばにいるから」です。

「身近な人」ほど疑いの対象になりやすい

物盗られ妄想は、家族など身近な人へ疑いの目が向けられやすい、という傾向があります(大塚製薬 すまいるナビゲーター)。赤の他人ではなく、毎日顔を合わせている人が標的になりやすいのです。

出典:大塚製薬 すまいるナビゲーター「認知症による物盗られ妄想の原因や対策と接し方」

なぜ、よりによって一番世話をしている人なのか。私が現場で見てきた感覚で説明させてください。

理由はシンプルで、接触する回数が圧倒的に多いからです。財布が見当たらない、という不安が湧いたその瞬間、本人の目の前にいて、記憶に残っているのは「いつもそばにいる人」です。週に1回来るヘルパーや、たまに顔を出す親戚ではなく、さっきも部屋に出入りしていた、あなたなのです。

つまり、「疑われる=近くにいる」がほぼイコールになっている。これは、あなたの人柄が嫌われた結果ではなく、接触の量がそのまま疑いの量になっているだけなんです。

📝 訪問現場より

私が訪問していたあるお宅でも、ご本人は来る人来る人に「娘が財布をどこかにやってしまう」と訴えていました。その場にいない娘さんを、外から来た私たちに向かって”犯人”にしてしまうのです。

一番近くで支えている娘さんだからこそ、本人の頭の中で真っ先に思い浮かんでしまう。皮肉な構図ですが、これが現実でした。

娘だけでなく「嫁」も標的になりやすい

疑われるのは実の娘や息子だけではありません。むしろ私の現場感覚では、同居しているお嫁さんが「あなたが盗ったでしょう」と疑われるケースがとても多いように感じます。

はっきりした理由は分かっていませんが、二つの要素が重なっているのだと考えられます。一つは、ここまで述べた接触の量。同居のお嫁さんは世話の中心で、一番そばにいます。もう一つは、血縁ではないことが影響している側面もあるようです。認知症では新しい記憶から失われていくため、「お嫁さんは家族」という、後から育まれた関係の記憶が薄れ、昔の感覚が前に出てしまうことがあると言われています。その結果、実の子よりも警戒の対象になりやすいのです。

「一番尽くしているのに、他人扱いされて疑われる」――お嫁さんの立場は、とりわけ報われなさが強くなります。でも、これもあなたの人柄が否定されたのではなく、近くで支えている人だからこそ起きていることです。

ただ、これは決してご本人の本心ではありません。あなたを嫌いになったのでも、他人だと突き放しているのでもなく、病気によって新しい記憶から薄れていっているだけです。長年あなたが築いてきた信頼は、本人の奥にちゃんと残っています。

「あなたが嫌われたわけではない」

この仕組みを知ってほしいのは、介護者であるあなた自身を守るためです。

「あんたが盗った」と言われ続けると、どんなに冷静な人でも心が削られます。「こんなに尽くしているのに」「私のこと、そんなふうに見ていたのか」と、自分を責めたり、相手を恨みそうになったりします。

でも、もう一度言います。それは病気がそうさせているのであって、あなたへの本心ではありません。 一番疑われるのは、一番近くで支えている証拠でもあるのです。

もちろん、頭で理解できても、感情はそう簡単に追いつきません。それでいいのです。「仕組みとしてはそういうものなんだ」と知っておくだけで、責められたときの心のダメージは少しだけ軽くなります。この”少しだけ”が、長い介護では効いてきます。

👨‍⚕️ もくもくポイント

あなたが疑われるのは、嫌われたからではなく「一番そばにいるから」です。接触の量が、そのまま疑いの量になっているだけ。これは現場で見てきた事実です。自分を責めないでください。

物盗られ妄想で家族がやってはいけないNG対応

ここからは具体的な対応の話に入ります。まず「やってはいけないこと」から押さえましょう。良かれと思ってやりがちなのに、かえって症状を悪化させてしまう対応があります。

NG①:頭ごなしに否定する

いちばんやってしまいがちなのが、「盗ってないよ」「そんなはずないでしょ」と真っ向から否定することです。

気持ちは痛いほど分かります。事実ではないのですから、否定したくなって当然です。でも、本人にとって「盗られた」はまぎれもない現実です。それを頭から否定されると、「どうして分かってくれないんだ」「やっぱりこの人が盗ったから、かばっているんだ」と、かえって疑いを強めてしまうことがあります。

否定は、本人を安心させるどころか、不安と敵意を煽ってしまう。逆効果になりやすい対応の代表格です。

NG②:問い詰める・説得しようとする

「どこに置いたか思い出してみて」「さっき自分でしまったでしょう」と、正論で説得しようとするのもNGです。

記憶障害で「しまった事実」そのものが抜け落ちているので、本人にはどう頑張っても思い出せません。思い出せないことを問い詰められると、本人は追い詰められ、よけいに混乱して不安が強まります。論理で勝とうとしないことが大切です。

NG③:感情的に言い返す・反論する

毎日繰り返されると、こちらも人間ですから、つい声を荒げたり言い返したりしてしまいます。これも、その場をさらにこじらせます。

ただ――ここは強調しておきたいのですが、感情的になってしまう自分を責める必要はありません。プロのヘルパーや施設職員が冷静でいられるのは、仕事として割り切れる距離があるからです。24時間、肉親として向き合っている家族が感情的になるのは、むしろ自然なことです。

だからこそ、「家族だけで完璧に対応しよう」と抱え込まないこと。これが後の章でお伝えする「介護者が壊れないために」の話につながっていきます。

現場で効果のあった対応のコツ

認知症の親の訴えを否定せず一緒に探し物をする家族

NG対応の逆をいけば、対応の方向性が見えてきます。ポイントは「否定しない・受け止める・一緒に動く」です。現場で実際に効果のあったやり方を紹介します。

✅ 効果的な対応の3原則

  • 頭から否定しない
  • 「困っている気持ち」を受け止める
  • 本人と一緒に動く(一緒に探す)

まずは否定せず、訴えを受け止める

「盗られた」と言われたら、まずは否定せずに耳を傾けます。「そう、財布が見当たらないのね」と、困っている気持ちにそのまま寄り添う。

ここで大事なのは、嘘をつく必要はないということです。「私が盗ってないよ」と自分の潔白を証明しにいくのではなく、「それは困ったね、一緒に探そうか」と、本人の”困っている状況”の側に立つ。たとえその場しのぎでも、本人が「分かってもらえた」と感じられれば、それで十分です。

「一緒に探す」で本人に見つけてもらう

受け止めたら、次は一緒に探します。このとき理想なのは、本人自身に見つけてもらうことです。

家族が先に見つけて「ほら、ここにあったでしょ」と差し出すと、「あんたが戻したんだ」と、かえって犯人にされてしまうことがあります。そうではなく、本人が自分の手で見つけられるようにそっと誘導する。「こっちの引き出しは見てみた?」と、見つかりそうな場所へ自然に導くイメージです。

📝 訪問現場より

私が訪問していたお宅でも、ご本人が「財布がない」と言うたびに、リハビリの時間に一緒に探したことが何度もありました。

見つかればその場は落ち着いて、ほっとされる。これを繰り返していました。

落ち着いたら、別の話題にそらす

物が見つかって気持ちが落ち着いたら、「盗られた物」から意識をそっと離していきます。お茶を勧める、好きな話を振る、別の作業に誘う。注意が他に向けば、妄想から気持ちが離れやすくなります。

日常で「役割」を持ってもらう

起きた妄想への対応とは別に、普段から本人の不安を減らしておくことも、地味ですが効いてきます。物盗られ妄想の根っこには「記憶障害+不安」があるからです。

現場で効果を感じたのは、本人に役割を持ってもらうことです。今の高齢女性は、長年家事を担ってきた方がほとんど。今は娘さんやお嫁さんがやっている家事を、少しだけ手伝ってもらうのです。洗濯物をたたむ、野菜の皮をむく。男性なら庭仕事や新聞を取りに行くなど、その方が長年担ってきたことなら何でも構いません。慣れた作業で「自分はまだ役に立っている」と感じられると、気持ちが落ち着き、不安からくる妄想も出にくくなります。

お金については、通帳や現金を家族が預かるのも一つの手です。ただし、取り上げられたと感じてかえって不安が強まる方もいるので、ここは本人の様子を見ながら、人によって判断してください。

「探す前提」で環境を整える

ただ、ここまで読んで「毎回そんな丁寧に対応するのは無理だ」と感じた方も多いと思います。その通りです。

先ほどのお宅でも、見つけて落ち着いても、ご本人がまた別の場所に財布をしまうので、同じことが何度も繰り返されました。一回うまく対応できても、根本の症状が変わるわけではない。「その場しのぎを毎日続けるしんどさ」こそが、家族を疲れさせる正体です。

だからこそ、毎回ゼロから探すのではなく、「探しやすくしておく」工夫が効いてきます。財布の定位置を決める、よく置く場所を家族が把握しておく。こうした環境づくりが、対応の消耗を減らします。

この「環境の工夫」を突き詰めた先に、私が実際に提案したある方法があります。それは次の章の体験談でお話しします。


訪問現場からのエピソード

スマートフォンで財布の場所を確認して安心する家族

ここまでお伝えしてきた対応を、実際の現場でどう積み重ねていったか。私が訪問していたあるお宅のケースを紹介します。

来る人来る人に「娘が盗った」と訴える

そのお宅では、認知症のお母様が「財布がない」と頻繁に訴えていました。実際には、ご自分でどこかにしまっているのですが、しまった場所が分からなくなってしまう。そして「娘がどこかにやってしまう」と、来る人来る人に話していました。

私が訪問でお邪魔したときにも、その場にいない娘さんを”犯人”として私たちに訴える。一番世話をしている娘さんが、頻繁にこれを言われて困り果てていました。リハビリの時間に一緒に財布を探したことも、何度もありました。

「定位置」も「見える化」も、続かなかった

そこでまず提案したのが、王道の環境づくりです。

最初に、財布の定位置を決めることを娘さんと相談しました。次に、中身が外から見えるように、透明なケースに入れる工夫も試しました。「どこにあるか一目で分かれば、無くなったと思わずに済むのでは」という狙いです。

ところが――これが続きませんでした。ご本人が、決めた定位置とは違う場所に、自分で財布を置いてしまうのです。透明ケースにしても、結局あちこちに移動してしまう。そのたびに「財布がない=娘が盗った」となり、娘さんは毎回、長い時間をかけて家じゅうを探すことになっていました。症状そのものは変わらないので、王道の工夫だけでは追いつかなかったのです。

「探す負担」をテクノロジーで消す

そこで発想を変えました。「しまう場所をコントロールする」のをあきらめて、「どこにあっても探せる」ようにするという方向です。

具体的には、AppleのAirTagのような、場所を感知できる小さなセンサーを財布の中に入れておき、娘さんのスマホから財布の位置を探せるようにしました。

結果はどうだったか。ご本人の症状自体は変わりません。相変わらず、いろいろな場所に財布を置いてしまいます。でも、「盗られた」と言われたときに、娘さんがスマホですぐに財布を探し出せるようになりました。家じゅうを何十分もかけて探し回る、あの消耗がなくなったのです。

🔖 私が実際に財布へ入れて使ったのはこれ(AirTag)

※利用にはiPhone(iOS端末)が必要です。人の居場所の追跡ではなく、財布など「持ち物」を探す用途で使います。

ちなみにAirTagは「物」を探す道具ですが、認知症の親の様子そのものを離れて見守りたいときは、専用の見守りセンサーという選択肢もあります。日中に目を離す時間や、離れて暮らす場合の備えとして、見守りセンサーで認知症の変化に早く気づく方法もあわせてご覧ください。

このエピソードが教えてくれること

このケースのポイントは、「症状を治そうとしなかった」ことです。

物盗られ妄想そのものは、なかなか消えません。本人が物をしまって場所を忘れる、という行動も変わりません。それを無理に変えようとすると、家族が消耗します。

そうではなく、「変えられない症状」はそのままに、「家族の負担」だけを減らす。 今は、こうした便利な道具が手の届く価格で手に入る時代です。「探す」という一点に絞ってテクノロジーを使うだけで、家族の毎日は驚くほど軽くなります。

頑張って症状と闘うより、上手にラクをする道具を取り入れる。これも立派な、現場で効果のあった対応のひとつです。

👨‍⚕️ もくもくポイント

変えられない「症状」と闘うのではなく、変えられる「家族の負担」を減らす。AirTagのような道具で”探す消耗”を手放すだけで、毎日は驚くほど軽くなります。上手にラクをするのも、立派な対応です。

疑われ続ける介護者が「壊れないため」に

介護に疲れた家族がケアマネジャーに相談し支えられる様子

ここまで本人への対応をお伝えしてきましたが、この章だけはあなた自身のための話です。物盗られ妄想の対応で本当に大切なのは、本人のケアと同じくらい、介護しているあなたが潰れないことだからです。

毎日「泥棒」と言われ続ければ、誰だって心が削れます。「もう情けない」「いつまで続くんだろう」と限界を感じるのは、あなたが弱いからではありません。それだけ過酷な状況に、一人で耐えているということです。

一人で抱え込まない・間に人を入れる

まず一番に伝えたいのは、家族だけで抱え込まないことです。

物盗られ妄想は、特定の人に疑いが集中しがちです。すると、その人だけが消耗していくだけでなく、「あの人がいるときばかり物が無くなる」と、他の家族からも誤解されて孤立してしまう危険があります。一番頑張っている人が、一番追い詰められる。これが物盗られ妄想の怖いところです。

だからこそ、間に人を入れてください。他のご家族に状況を共有する、ケアマネジャーに相談する、デイサービスや訪問介護を利用して、本人と接する人をあなた一人に集中させない。接触する人が分散すれば、疑いも分散します。あなたが少し後ろに下がれる時間を作ることが、何よりの対策です。

物理的に「距離を置く」ことは逃げではない

疑いの目が自分にばかり向くときは、思い切って少し距離を置くことも検討してください。

「介護を投げ出すみたいで罪悪感がある」と感じるかもしれません。でも、これは逃げではありません。あなたが倒れたら、介護そのものが続かなくなります。 デイサービスに通ってもらっている間に好きなことをする、たまには他の家族に任せて家を空ける。そうやって自分を回復させる時間は、介護を続けるために必要な投資です。

実際、認知症の介護現場では、疑われることで疲れ果てた家族が「もう手伝いたくない」と離れていってしまう例も報告されています(認知症の人と家族の会)。そうなる前に、意識的に休む。早めに距離を取ることは、家族関係を壊さないためにも大切です。

出典:認知症の人と家族の会「物盗られ妄想がひどくなってきた/姉たちが手伝いをやめると言う」

「自分を責めない」ことが最大のケア

最後にもう一度。あなたが疑われるのは、あなたが一番そばで支えている証拠です。決して、あなたの人間性が否定されたわけではありません。

うまく対応できなくても、感情的になってしまっても、それはあなたが冷たいからではなく、それだけ近くで必死に向き合っているからです。自分を責めないこと。これが、長い介護を生き抜くための最大のセルフケアです。

つらいときは、家族会や認知症カフェで同じ経験をした人に話を聞いてもらう、ケアマネジャーに気持ちを吐き出す。一人で背負わない方法は、必ずあります。

👨‍⚕️ もくもくポイント

一人で抱え込まないこと。間に人を入れれば、接触が分散し、疑いも分散します。距離を置くのは逃げではなく、介護を続けるための投資です。あなたが倒れないことが、最優先です。

では、いつまで続くのか・受診の目安を見ていきましょう。


物盗られ妄想はいつまで続く?受診の目安

毎日疑われ続けていると、「これがいつまで続くのか」という先の見えなさが、何よりつらいものです。終わりが見えれば耐えられることも、いつ終わるか分からないと、心が持ちません。ここでは経過の見通しと、受診を考える目安をお伝えします。

いつまで続く?経過の見通し

まず知っておいてほしいのは、物盗られ妄想は多くの場合、ずっと続くわけではないということです。

医療情報では、アルツハイマー型認知症で妄想が出現するピークは、発症からおよそ3〜4年とされています(メディカルノート)。つまり、認知症が進行して時期を過ぎると、物盗られ妄想自体は自然と落ち着いてくることが多いのです。

出典:メディカルノート「アルツハイマー病の物盗られ妄想とは」

もちろん個人差は大きく、「○年で必ず終わる」と断言はできません。それでも、「これは一生続くものではなく、ある時期に強く出る症状なんだ」と知っておくだけで、今の状況の受け止め方は変わってくるはずです。出口のないトンネルではない、ということです。

受診を考える目安

次のような場合は、早めに専門医(かかりつけ医、もの忘れ外来、精神科など)への相談を検討してください。

⚠️ こんなときは早めに受診を

  • 妄想が強く、本人が不安で夜も眠れない状態が続いている
  • 興奮が強い、または暴言・暴力をともなうなど、家族だけでは対応が難しくなっている
  • 介護している家族の心身が、限界に近づいている

薬によって妄想や興奮が和らぐケースもあります。「薬に頼るのは抵抗がある」と感じる方もいますが、本人と家族の両方が穏やかに過ごせるなら、それは前向きな選択です。

そしてもう一つ。受診は「本人のため」だけでなく「家族のため」でもあります。 専門職という相談相手ができること自体が、抱え込んできた家族にとって大きな支えになります。

まだ受診していない・本人が拒否する場合

「そもそもまだ認知症の診断を受けていない」「本人が病院を嫌がる」というケースもあります。

物盗られ妄想がきっかけで、初めて認知症が分かることも少なくありません。早い段階で分かれば、薬やリハビリで進行を緩やかにできる可能性も広がります。本人が受診を拒む場合は、無理に説得しようとせず、まず地域包括支援センターに相談してみてください。家族だけで動かず、公的な窓口を入り口にするのが、いちばん現実的です。

まとめ|「疑われるあなた」を、まず守ってほしい

認知症の物盗られ妄想について、原因から対応、そして介護者自身を守る視点までお伝えしてきました。最後に要点を整理します。

📝 まとめ

  • 物盗られ妄想は「記憶障害+不安」で起こる。本人にとっては現実であり、意地悪で言っているわけではない
  • 一番世話している人ほど疑われるのは、接触が多いから。あなたが嫌われたのではなく、一番そばにいる証拠
  • NG対応は「否定・説得・感情的な反論」。本人の不安を煽り、逆効果になりやすい
  • 効果的な対応は「否定せず受け止め、一緒に探す」。本人自身に見つけてもらうのがコツ
  • 症状は治そうとせず、家族の負担を減らす。AirTagのような道具で「探す消耗」は手放せる
  • 介護者は一人で抱え込まない。間に人を入れ、距離を取り、自分を責めないこと
  • ピークは発症から3〜4年とされ、一生は続かない。つらいときは受診や地域包括支援センターへ

物盗られ妄想の対応というと、つい「本人をどうなだめるか」に意識が向きます。でも、私が現場で一番お伝えしたいのは、疑われ続けているあなた自身を、まず守ってほしいということです。

あなたが疑われるのは、一番近くで支えている人だからです。それは責められることではなく、本来なら一番ねぎらわれるべきことです。症状とまっすぐ闘うのではなく、道具に頼り、人に頼り、上手に力を抜く。そうやってあなたが穏やかでいられることが、巡り巡って本人にとっても一番いい環境になります。

一人で抱え込まないでください。あなたを支えてくれる人や仕組みは、必ずあります。


【ご注意】本記事は、理学療法士の資格を持つ筆者が在宅訪問の経験をもとに作成した情報提供を目的としたものです。個人の状態や環境によって適切な対応は異なります。医療・介護に関する判断は、担当の医師・ケアマネジャー・専門職にご相談ください。

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