📋 この記事でわかること
- ✔ 遠距離介護で家族が最初にすべきこと
- ✔ 帰省・電話だけでは気づけない親の変化とその理由
- ✔ 介護保険申請を早めに動くべき理由
- ✔ 遠距離でも使える見守りの仕組みと在宅サービス

「離れて暮らす親のこと、電話では元気そうなんですけど…本当に大丈夫なのか不安で」

電話の声だけでは、体の変化はなかなか見えません。「声は元気そうだったのに、実際に会ったら歩き方が別人みたいだった」という経験をされる方、多いんです。帰省したときこそ、動作をじっくり観察するチャンスです。
そう話してくれたのは、新幹線で2時間の距離に住む娘さんでした。
月に1回は帰省して、一緒にご飯を食べて、笑顔で帰っていく。
娘さんが帰った翌週、私がいつものようにリハビリに伺うと、お母さんの様子が少し違いました。
「娘さん来てくれてよかったですね。どうでしたか?」と聞くと、
「楽しかったけど…帰った後が寂しくてね」
— 訪問先の利用者さんの言葉
と、少し元気のない表情で話してくれました。
電話では「元気だよ」と言っていた。帰省中も笑顔だった。でも本当の気持ちは、娘さんが帰ったあとの静けさの中にありました。
遠距離介護は、頑張って帰省することよりも、仕組みをつくることが大切です。
この記事では、訪問リハビリ12年・12,000件以上の現場経験をもとに、離れて暮らす親のために家族が今すぐできることをお伝えします。
遠距離介護をしている家族は今どのくらいいるのか
同居介護が減り、別居介護が増えている
「介護は家族がそばでするもの」という時代は、少しずつ変わってきています。
厚生労働省の「2022年 国民生活基礎調査」によると、主な介護者が要介護者と同居している割合は45.9%。2019年の調査では54.4%だったことを考えると、3年間で約9ポイントも低下しています。
一方で、別居の家族が主な介護者となっている割合は11.8%。核家族化や子どもの転勤・就職による地元離れが進む中、遠距離で親の介護を担う家族は今後さらに増えていくと考えられます。
さらに注目したいのが、同居介護者のうち介護する側・される側がともに65歳以上という「老老介護」の割合です。同調査では63.5%にのぼっており、介護する側もまた高齢者であるという現実が、在宅介護の厳しさを示しています。
「遠距離介護」とはどこからが遠距離?
明確な定義はありませんが、一般的には片道1時間以上かかる距離で介護をしている状態を指すことが多いです。
新幹線や飛行機を使わないと会いに行けない、という方だけでなく、電車で1〜2時間という距離でも、仕事や子育てと両立しながら頻繁に帰省するのは簡単ではありません。
「近くもなく、遠くもない」その距離感だからこそ、「もっと頑張れるはず」と自分を追い詰めてしまう家族も多く見てきました。
内閣府「令和4年版 高齢社会白書」によると、介護者全体のうち遠距離介護を選択している割合は約13.6%。決して少なくない数の家族が、離れた場所から親の介護を担っている現状があります。
電話や帰省だけでは気づけないことがある
帰省中の親は「よそ行きモード」になっている
離れて暮らす子どもが帰ってくる。それは高齢の親にとって、特別なイベントです。
前日から部屋を片付けて、好きな料理を準備して、いつもより背筋を伸ばして迎える。そんな「よそ行きモード」の親の姿を見て、「元気そうでよかった」と安心して帰る家族を、現場で何度も見てきました。
でも帰省中の親は、日常の姿ではありません。
普段は朝起き上がるのに時間がかかっていても、その日だけは頑張って早起きする。食欲が落ちていても、子どもの前では食べようとする。親心が、本当の状態を見えにくくするのです。
👨⚕️ もくもくポイント
帰省中の親は「よそ行きモード」になっている。電話での「元気だよ」を鵜呑みにせず、日常の変化を継続的に把握する仕組みをつくることが大切です。
電話では認知機能の低下は見えにくい
毎日電話しているから大丈夫、と思っている方も多いです。しかし電話での会話は、認知機能の低下を見逃しやすい場面のひとつです。
電話は慣れた相手との短い会話です。「元気?」「元気だよ」というやりとりは、認知機能がかなり低下していても成立します。同じ話を繰り返していても、電話では気づきにくい。日付や曜日の感覚が薄れていても、会話の流れでごまかせてしまう。
実際に、毎日電話をしていた家族が久しぶりに帰省したとき、冷蔵庫の中の状態や部屋の様子を見て「こんなになっていたとは思わなかった」と言葉を失う場面を、私は何度も経験しています。
現場で見た「気づいたときには遅かった」ケース
あるご利用者のお宅に伺ったとき、息子さんから「最近、母と話していてもなんか噛み合わなくて」と相談を受けたことがありました。
電話では普通に話しているように聞こえていたけれど、実際に顔を見て話すと、同じことを何度も繰り返す。昨日食べたものが思い出せない。そういった変化が、すでに数ヶ月前から始まっていたことがわかりました。
「もっと早く気づいていれば」と悔やむ家族の言葉は、今も忘れられません。
電話や帰省は、親とのつながりを保つ大切な手段です。ただそれだけでは、日常の変化を継続的に把握することには限界があります。だからこそ、プロの目と仕組みが必要なのです。
帰省したときに確認したい5つのポイント

帰省したときは「会いに行く」だけでなく、親の日常を観察する時間としても使いましょう。特別な検査や道具は必要ありません。普段の生活の中にヒントがあります。
✅ 帰省時に確認したい5つのポイント
- 冷蔵庫・食事の状況(賞味期限切れ・食欲の変化・むせ)
- 歩き方・立ち上がりの様子(スピード・手つき・段差の越え方)
- 部屋の清潔さ・ゴミの状態(散らかり・洗濯物のたまり)
- 会話のかみ合い方(同じ話の繰り返し・返答のズレ)
- 郵便物・支払いの状況(未開封の郵便物・督促状)
冷蔵庫・食事の状況
冷蔵庫の中は、生活の実態が最もよく出る場所のひとつです。賞味期限切れの食品が多い、同じものばかり買っている、ほとんど何も入っていない、といった状態は、食欲の低下や買い物に行けていないサインである可能性があります。
また、一緒に食事をしたときの食べる量や速さ、むせの有無なども観察しておきましょう。
歩き方・立ち上がりの様子
歩くスピードが以前より遅くなっていないか、椅子からの立ち上がりに時間がかかっていないか、玄関の段差を越えるときに手をついていないか。
こうした動作の変化は、筋力低下やバランス機能の衰えを示していることがあります。転倒リスクが高まっているサインでもあるため、見逃さないようにしましょう。
🩺 PTの目線|数値で見る「要注意ライン」
- 椅子から手をつかずに立てない → 下肢筋力の低下サイン
- 4mを5秒以上かけて歩く(歩行速度0.8m/s未満)→ フレイル・転倒リスクの目安
これらは理学療法士が現場で使う実際の指標です。帰省中にさりげなく観察してみてください。
部屋の清潔さ・ゴミの状態
以前はきれいにしていた部屋が散らかっている、ゴミ出しができていない、洗濯物がたまっている、といった状態は、体力や意欲の低下のサインであることがあります。
「片付けが面倒になった」という一言の裏に、フレイルや軽度認知障害(MCI)が隠れているケースを現場で何度も経験しています。
会話のかみ合い方
同じ話を短時間に何度も繰り返す、質問に対してかみ合わない返答が返ってくる、最近の出来事をうまく思い出せない様子がある、といった変化は、認知機能の低下を示している可能性があります。
「歳だから物忘れが増えた」で片付けずに、変化のスピードや頻度に注目することが大切です。
郵便物・支払いの状況
テーブルの上に未開封の郵便物が積み上がっていないか、督促状のようなものが届いていないか、通帳や支払いの管理ができているかも確認しておきましょう。
お金の管理が難しくなることは、認知機能低下の早期サインのひとつです。本人が「大丈夫」と言っていても、さりげなく確認しておくことをおすすめします。
ケアマネジャー・かかりつけ医とつながっておく
なぜプロの目が必要なのか
帰省のたびに観察することは大切です。しかし月に1回、数日間の帰省では、日々の細かな変化を把握し続けることには限界があります。
訪問リハビリの現場で働いていて強く感じるのは、週に1〜2回、定期的に関わるからこそ見えてくる変化があるということです。
「先週より歩幅が小さくなった」「今日は表情が乏しい」「いつもと話し方が違う」
こうした小さな変化の積み重ねが、大きな問題の早期発見につながります。家族だけでこれを継続的に行うのは、遠距離では現実的に難しい。だからこそ、プロの目を借りることが遠距離介護の最大の武器になります。
地域包括支援センターへの相談が第一歩
「でも、どこに相談すればいいかわからない」という方は、まず地域包括支援センターに連絡してみてください。
地域包括支援センターは、介護・医療・保健・福祉に関する相談を無料で受け付けている公的な窓口です。全国の市区町村に設置されており、親が住んでいる地域の担当センターに相談することができます。
✅ 地域包括支援センターで受けられるサポート
- 介護保険の申請手続きのサポート
- 地域のケアマネジャーの紹介
- かかりつけ医との連携方法のアドバイス
遠距離介護では、現地の専門職と繋がっておくことが何よりの安心につながります。「まだ介護というほどではないけれど…」という段階でも、気軽に相談できる窓口です。親が住んでいる地域の地域包括支援センターの連絡先を、今のうちに調べておくことをおすすめします。
「まだ早い」は危険。介護保険の申請は早めに動く

申請しても使わなくていい。でも持っておく理由
「介護保険の申請」と聞くと、「うちの親はまだそこまでじゃない」と感じる方も多いと思います。
でも、介護保険は申請してから実際に使うまで、時間がかかります。
申請後に認定調査が行われ、介護度が決まるまでに通常1〜2ヶ月かかります。その間は原則としてサービスを使い始めることができません。いざというときに「すぐ使いたい」と思っても、すぐには動けないのです。
⚠️ よくある後悔パターン
現場でよく見るのは、転倒して骨折した、認知症が進んで一人での生活が難しくなった、そういった緊急事態が起きてから慌てて申請するケース。そのときになって初めて「もっと早く申請しておけばよかった」という声を、家族から何度も聞いてきました。
介護保険は、申請しても使わなくていい。でも持っておくことで、いざというときに素早く動けます。「備えの保険証」だと思って、早めに動いておくことを強くおすすめします。
👨⚕️ もくもくポイント
介護保険は申請しても使わなくていい。でも「備えの保険証」として、元気なうちに申請だけ済ませておくことが大切です。いざというときに素早く動けるかどうかが、その後の生活を大きく左右します。
要介護認定の流れ
申請の手続きや認定までの流れについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ 要介護認定の申請方法と流れ|必要なものから認定までの手順を徹底解説
遠距離でも使える見守りの仕組みを整える
離れて暮らす親の「今日も元気かな」という不安を、毎日の電話だけで解消しようとするのには限界があります。近年は、遠距離介護の家族を支える見守りのツールが充実してきました。うまく組み合わせることで、離れていても日常の変化に気づける仕組みをつくることができます。
センサー・GPS・スマートウォッチの使い分け方
見守りツールは大きく3種類に分けられます。それぞれ得意なことが違うので、親の状況や家族の不安に合わせて選ぶことが大切です。
📊 見守りツール3種類の特徴
センサー見守り
自宅内の動きを検知。生活リズムの変化にいち早く気づける。認知症の初期変化の発見にも有効。
GPS見守り
徘徊が心配な方向け。現在地をリアルタイムで確認でき、万が一の発見もスムーズ。
スマートウォッチ
活動量・心拍数を記録。見守られている感を出さずに使えるのがメリット。フレイル予防にも。
センサー見守りは、自宅内の動きをセンサーで検知して、家族のスマートフォンに通知する仕組みです。「今日もトイレに行った」「いつもの時間に台所に立った」といった日常のリズムを把握できるため、生活パターンの変化にいち早く気づけるのが特徴です。認知症の初期変化の発見にも有効です。
→ 離れて暮らす親の見守り方法|センサーで認知症の変化に早く気づく方法
GPS見守りは、認知症による徘徊が心配な方に特に有効です。小型の端末を持ち歩いてもらうことで、現在地をリアルタイムで確認できます。万が一外出先で迷子になっても、素早く発見できる安心感があります。
→ 認知症の徘徊が心配な家族へ|GPSおすすめ機種と「持たせ方」を訪問PTが解説
スマートウォッチは、日常的な活動量や心拍数などを記録できるツールです。「最近あまり歩いていない」「睡眠が乱れている」といった変化を数値で把握できるため、フレイル予防や体調管理の観点からも役立ちます。本人が喜んでつけてくれるケースも多く、見守られている感を出さずに使えるのがメリットです。
→ 【遠距離介護にも使える】高齢者向けスマートウォッチおすすめ|見守り・活動量管理をPTが徹底解説
訪問リハビリ・訪問介護など在宅サービスを知っておく
遠距離介護において、在宅サービスは家族の代わりに定期的にプロが関わってくれる仕組みです。「自分がそばにいられない分、専門職に見ていてもらう」という発想で、積極的に活用することをおすすめします。
遠距離だからこそ在宅サービスが強い味方になる
在宅サービスの中でも、遠距離介護の家族に特に知っておいてほしいのが訪問リハビリと訪問介護です。
訪問リハビリは、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などの専門職が自宅を訪問してリハビリを行うサービスです。歩行や立ち上がりの改善だけでなく、定期的に関わることで生活機能や認知機能の変化にいち早く気づけるという役割もあります。
ここで一つ、現場でよく見る場面をお伝えします。
「体の調子は悪くないから、まだサービスは必要ない」と感じている高齢者の方は多いです。在宅サービスでは訪問看護もありますが、「病気じゃないのに看護師さんが来るの?」と受け入れてもらえないことがあります。
そんなときに効果的なのが訪問リハビリからサービスを始めるという方法です。「体が衰えないように、運動を手伝ってもらう」という目的であれば、元気な方でも比較的受け入れてもらいやすい。実際に、訪問リハビリをきっかけに他のサービスとの連携がスムーズになったケースを数多く経験しています。
「まだ元気だから」という親にこそ、訪問リハビリは有効な入口になります。
離れて暮らす家族には直接見えない「日常の変化」を、訪問リハビリのスタッフが把握してケアマネジャーに報告する。そのような連携が、遠距離介護の安心感を大きく支えます。
👨⚕️ もくもくポイント
「まだ元気だから」という親にこそ、訪問リハビリは有効な入口になる。訪問看護より「体の衰え予防」という目的の方が受け入れてもらいやすく、そこから他のサービスへの連携もスムーズになります。
→ 訪問リハビリとは?理学療法士が「介護保険・医療保険の違い」からわかりやすく解説
訪問介護は、ヘルパーが自宅を訪問して食事・入浴・排泄などの身体介助や、買い物・掃除・調理などの生活援助を行うサービスです。毎日の生活の中に定期的に人の目が入ることで、異変の早期発見にもつながります。
ただし、訪問介護には介護保険の範囲内でできること・できないことがあります。「ヘルパーさんに頼めると思っていたのに断られた」というケースも少なくありません。事前にケアマネジャーに相談しながら、サービス内容を確認しておきましょう。
→ ヘルパーに頼めないことがある?介護保険外の自費訪問介護サービスとは
まとめ:遠距離介護は「仕組み」で乗り越える
離れて暮らす親のことが心配で、できる限り帰省して、毎日電話して。その気持ちは間違いではありません。でも、頑張る気持ちだけでは限界がきます。
📝 まとめ
- ✅ 同居介護が減り、遠距離で親を支える家族は増えている
- ✅ 帰省中の親は「よそ行きモード」になっており、電話では認知機能の低下は見えにくい
- ✅ 帰省したときは、冷蔵庫・歩き方・部屋・会話・郵便物の5つを観察する
- ✅ 地域包括支援センターに相談し、ケアマネジャー・かかりつけ医と繋がっておく
- ✅ 介護保険の申請は「まだ早い」ではなく、元気なうちに済ませておく
- ✅ センサー・GPS・スマートウォッチで日常の見守りの仕組みをつくる
- ✅ 訪問リハビリ・訪問介護など在宅サービスでプロの目を借りる
👨⚕️ もくもくポイント
遠距離介護で大切なのは、自分一人で頑張ることではなく、仕組みをつくること。専門職と繋がり、サービスを活用し、見守りの仕組みを整える。それが離れていても親を守る最善の方法です。
「何から始めればいいかわからない」という方は、まず親が住んでいる地域の地域包括支援センターに電話することから始めてみてください。それが、遠距離介護の第一歩です。
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