📋 この記事でわかること
- ✔ 運動しない高齢者でもプロテインに意味がある理由
- ✔ 運動する人とは「目的」がまったく違うこと
- ✔ プロテインより先に見直すべき「食事」の話
- ✔ プロテインを取り入れるときの注意点

うちのおじいちゃん、ほとんど寝て過ごしてるんです。運動もできないのに、プロテインなんて飲ませて意味あるんでしょうか?

いい質問ですね。結論から言うと、意味はあります。ただし、運動する若い人とは飲む目的が違うんです。
「運動していないのにプロテインを飲んでも無駄では?」——ご家族からよく受ける質問です。世の中のプロテイン情報は「運動とセット」が大前提なので、そう思うのも当然でしょう。でも、動けない高齢者にこそタンパク質が必要な理由があります。しかも、ただ飲ませればいいわけではなく、「食事が先、プロテインは補助」という大事な順番もあります。この記事では、動かない人にとってのタンパク質の意味と、正しい取り入れ方を、訪問リハビリで12年、理学療法士として1万件以上のお宅を回ってきた立場からお話しします。栄養は本来、わたしたち理学療法士の専門分野ではありません。それでも正直に言えば、わたしはリハビリそのものより、栄養のほうが大事だと感じることすらあります。どんなにいい運動やリハビリをしても、体をつくる材料が足りなければ結果は出ない——現場でそれを何度も見てきたからです。読み終わるころには、ご家族が今日から何をすればいいかがはっきり見えるはずです。
運動しなくてもプロテインに意味はある。ただし目的が違う

まず結論です。運動していない高齢者でも、プロテインには意味があります。ただし、運動する人とは目的が違うことを理解しておく必要があります。(そもそも高齢の親にプロテインが必要かどうかの判断は、高齢者にプロテインは必要?で解説しています。)
運動する人がプロテインを飲むのは、筋肉を「増やす」ためです。トレーニングで傷ついた筋肉を、材料であるタンパク質で修復し、より大きく育てる。これがよく知られたプロテインの使い方です。だから「運動しないなら飲んでも無駄」というイメージが広まっています。
一方、運動しない高齢者にとっての目的は、筋肉や体を「減らさない・守る」ことです。増やすためではなく、今ある体を維持し、崩れるのを防ぐため。同じプロテインでも、役割がまったく違うのです。ここを取り違えると、「動かないんだから不要」という誤解につながってしまいます。
これは私の個人的な意見ではありません。国が定めた「日本人の食事摂取基準(2025年版)」でも、栄養指導によってフレイル(虚弱)の改善が科学的に証明されている栄養素は、タンパク質のみとされています。つまり、動ける動けないに関係なく、高齢者の体を守るうえでタンパク質が特別に重要だと、国レベルで裏付けられているわけです。
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
では、実際にどれくらいを目安にすればいいのでしょうか。同じ食事摂取基準(2025年版)では、65歳以上の1日のタンパク質推奨量は、男性で60g、女性で50gとしています。体重に置きかえると、ざっくり体重1kgあたり1gほど。たとえば体重50kgの方なら1日およそ50gが目安です。まずはこのラインを”守りの最低限”として頭に入れておくと、日々の食事を見直すときのものさしになります(床ずれやサルコペニアがある場合は、後述のようにもう少し多めが必要です)。
「運動できないから、もう何をしても手遅れ」と感じているご家族もいます。でも、そんなことはありません。動かない時期だからこそ、食事とタンパク質でできる”守り”がある。ここを知っているかどうかで、これからの数年の過ごしやすさが変わってきます。
👨⚕️ もくもくポイント
「運動しないなら無駄」は誤解です。動く人は「増やす」ため、動かない人は「守る」ため。目的が違うだけで、意味はちゃんとあります。
なぜ動かない人ほどタンパク質が要るのか

「動かないなら、むしろ栄養はいらないのでは?」と思う方もいます。消費が少ないぶん、少食でいいだろう、という発想です。ですが実際は逆で、動かない人ほどタンパク質が必要になる場面が多いのです。
動かないと筋肉はどんどん落ちていく
人の体は、使わない筋肉を「不要」と判断してどんどん減らしていきます。これを廃用(はいよう)と呼びます。寝て過ごす時間が長い高齢者は、この筋肉の減少が驚くほど早く進みます。数日安静にしただけでも、目に見えて脚が細くなる方は珍しくありません。何もしなければ坂道を転がるように落ちていく——だからこそ、材料となるタンパク質を切らさないことが、体を守る最低限の防波堤になります。動かない人ほど、守りに回る栄養が要るというわけです。
タンパク質が守ってくれる4つのこと
動かない高齢者にとって、タンパク質は次の4つを守る働きをします。
ひとつ目は、床ずれ(褥瘡)の予防です。皮膚も筋肉も、材料はタンパク質。栄養が足りないと皮膚が薄く弱くなり、寝ている時間が長い人ほど床ずれができやすくなります。褥瘡の予防・治療では低栄養を避けることが基本とされ、床ずれがある場合には、国際的なガイドライン(NPUAP/EPUAP/PPPIA)で体重1kgあたり1.25〜1.5gのタンパク質摂取が推奨されています。動かない人にとって、これは直結するリスクです。
出典:褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)/NPUAP・EPUAP・PPPIAガイドラインの栄養推奨量(ディアケア)
ふたつ目は、免疫を保ち、感染症を防ぐことです。免疫細胞もタンパク質からできています。低栄養の高齢者は肺炎などにかかりやすく、こじらせやすい。体を守る兵隊さんの材料、とイメージしてください。ちょっとした風邪をきっかけに一気に弱る背景には、栄養不足が隠れていることがよくあります。
三つ目は、体重と筋肉量の維持です。サルコペニア(加齢による筋肉減少)対策では、体重1kgあたり1.2〜1.5g程度のタンパク質が必要とされています。体重60kgの方なら1日およそ72〜90g。決して少ない量ではありませんが、これが痩せ細っていくのを食い止めるための目安になります。
出典:公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット|サルコペニアと栄養」
四つ目は、回復力です。風邪や骨折、入院など、高齢者は何かのきっかけで一気に弱ります。そこから戻ってこられるかどうかは、日頃の栄養の蓄えにかかっています。栄養という貯金があるかないかで、同じ病気でも回復のスピードがまったく変わってきます。動かない時期にタンパク質を保っておくことは、いざというときのための備えでもあるのです。
✅ タンパク質が守ってくれる4つのこと
- 床ずれ(褥瘡)の予防
- 免疫を保ち、感染症を防ぐ
- 体重・筋肉量の維持
- いざというときの回復力
こんなサインが出たらタンパク質不足かも
ご家族が気づきにくいのが、この「隠れタンパク質不足」です。次のようなサインが見られたら、一度食事を見直すきっかけにしてください。体重が少しずつ減ってきた、腕や脚が細くなった、小さな傷やあざが治りにくい、足がむくみやすい、風邪をひくと長引く、以前より疲れやすく元気がない——こうした変化は、加齢のせいと片づけられがちですが、その裏にタンパク質を含む栄養不足が隠れていることが少なくありません。特に体重の減少は分かりやすい目安です。半年で体重の数%が自然に減っているようなら、食事の中身を一度確認してみる価値があります。
✅ こんなサインは「隠れタンパク質不足」かも
- 体重が少しずつ減ってきた
- 腕や脚が細くなった
- 小さな傷やあざが治りにくい
- 足がむくみやすい
- 風邪をひくと長引く
- 以前より疲れやすく元気がない
とくに体重の減少は分かりやすい目安。半年で数%の自然減があれば食事を見直すサインです。
👨⚕️ もくもくポイント
体重が半年で少しずつ減っている、傷が治りにくい——それは「隠れタンパク質不足」のサインかもしれません。加齢のせいと片づける前に、まず食事を見直してみてください。
👉 あわせて読みたい
でも順番が大事|まず食事、プロテインは補助

ここまで読むと「じゃあ、さっそくプロテインを飲ませよう」となりがちですが、少し待ってください。いちばん大事な順番があります。プロテインの前に、まず食事です。
栄養が足りなければ、運動もリハビリも無駄になる
私がリハビリの現場でいつも痛感するのは、栄養が足りない人は、いくら運動しても効果が出ないという事実です。体を作る材料がないのに、運動という”負荷”だけかけても、筋肉は育つどころかやせ細ってしまう。がんばってリハビリをしているのに一向に力がつかない——そんな方の食事を見ると、タンパク質どころか全体の量が足りていないことがよくあります。だから訪問先では、まず「ちゃんと食べられているか」を必ず確認します。
これには理由があります。エネルギー(カロリー)が不足した状態では、せっかく摂ったタンパク質も体づくりに使われず、エネルギー源として消費されてしまうのです。ごはんもおかずも足りていない人に、プロテインだけを足しても効果は限定的。まずは食事全体を整えることが先決なのです。
出典:株式会社明治「褥瘡治療の栄養管理」(杏林大学医学部監修)
どんな食品でタンパク質を摂ればいい?
タンパク質は、肉・魚・卵・大豆製品・乳製品といった日々の食事から摂るのが基本です。特別な食材は要りません。ごはんに焼き魚、卵、味噌汁に豆腐——こうした普通の和食が、実はしっかりタンパク質源になります。目安として、卵1個で約6g、豆腐半丁で約7〜10g、鮭一切れで約15g、牛乳コップ1杯で約7gほど。これらを3食に分けて散りばめると、無理なく積み上がっていきます。ポイントは、朝食を抜いたりパンだけで済ませたりせず、毎食に何かしらのタンパク源を入れることです。
🍽️ 身近な食品のタンパク質の目安
- 卵 1個 … 約6g
- 豆腐 半丁 … 約7〜10g
- 鮭 一切れ … 約15g
- 牛乳 コップ1杯 … 約7g
※製品や大きさで前後します。3食に分けて散りばめるのがコツ。
たくさん食べられない人でも、ちょっとした工夫でタンパク質を上乗せできます。味噌汁にきな粉やスキムミルクを溶かす、おかゆに卵を落とす、間食にヨーグルトやチーズ、豆乳を選ぶ——どれも量を増やさずに栄養価だけ底上げできる方法です。一度にたくさんは無理でも、こうして少しずつ積み重ねるほうが、高齢者には現実的です。まずは今の食事にひと工夫、を合言葉にしてみてください。
大事なのは”1日の合計”より、毎食に分けて摂ること

高齢者のタンパク質で見落とされがちなのが、「1日にどれだけ摂ったか」だけでなく「1回の食事でどれだけ摂ったか」も大事だという点です。年をとると、体は1回の食事で受け取ったタンパク質を筋肉に変える力が少しずつ鈍くなります。そのため、同じ1日分でも、一度にまとめてではなく、朝・昼・晩に分けてしっかり摂るほうが、筋肉の材料として活かされやすいのです。
ところが訪問先で食事を見せてもらうと、3食に均等に摂れている方はほとんどいません。いちばん多いのは、朝がパンとお茶だけ、あるいは果物程度で済ませ、タンパク質が夜に偏っているパターンです。朝にタンパク質がほとんど入っていないと、その1食分は、体を守るせっかくのチャンスをまるごと逃していることになります。ただでさえ筋肉が落ちやすい動かない高齢者にとって、この”朝の空白”はとてももったいない時間です。
だからまず見直したいのは、夜より朝です。夜にたくさん食べさせようとするより、朝に卵ひとつ、ヨーグルト、牛乳、豆腐の入った味噌汁——どれかひとつでもタンパク源を足すほうが、体はちゃんと応えてくれます。「3食それぞれに、手のひらサイズのタンパク源を」。これを合言葉にしてみてください。
食事で足りない分を補うのがプロテイン
それでも、「食べたくても食べられない」人もいます。歯や入れ歯の具合が悪くて肉が噛めない、魚が苦手でほとんど口にしない、食が細くて量が入らない——こうした理由でタンパク質が明らかに不足している場合は、プロテインが有効な選択肢になります。飲み物なら噛む力が弱くても摂りやすく、少量でもタンパク質を届けられるからです。無理に食事だけで頑張るより、飲みやすい形で補ったほうが現実的なケースは確かにあります。プロテインはあくまで、食事で届かない分を埋める脇役。主役は食卓にある、という順番だけは忘れないでください。(食が細い方向けの工夫は別記事で詳しく紹介しています)
👨⚕️ もくもくポイント
プロテインは”魔法の粉”ではありません。まず食事、足りない分だけ補助。この順番を守ることが、いちばんの近道です。
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訪問現場からのエピソード|食事を見直したら回復が変わった

📝 訪問現場より
80代の女性で、ほとんど寝て過ごす利用者さんがいました。ご家族は「動かないから食事も少しでいい」と考え、食事はおかゆ中心。私が伺ったとき、腰に小さな床ずれができかけていて、顔色も冴えませんでした。
食事の内容を確認すると、タンパク質が明らかに不足していました。そこでケアマネジャーや管理栄養士とも相談し、まずは卵や豆腐、ヨーグルトなど、食べやすいタンパク源を毎食少しずつ足す形に変えました。それでも量が届かない分を、プロテイン飲料で補うことにしました。あくまで食事が土台、プロテインは補助という組み立てです。
数週間後、床ずれのできかけは改善し、表情にも張りが戻ってきました。劇的な変化ではありませんが、”守る”という目的は確かに果たせたのです。ご家族も「食べる中身を変えるだけでこんなに違うんですね」と驚いていました。
このとき、ご家族から最初に受けたのが冒頭の質問——「運動してないのに意味あるんですか?」でした。私はいつもこう答えます。「まず今の食事を見せてください。タンパク質が足りていれば、無理に足す必要はありません。でも明らかに不足していて、食事だけでは補えないなら、プロテインは十分に選択肢になりますよ」と。あくまで食事が先。その順番だけは、ご家族にも必ずお伝えしています。
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プロテインを取り入れる前に知っておきたい注意点
最後に、安全に取り入れるための注意点です。
いちばん大切なのは、腎臓の病気や透析を受けている方、持病で食事指導を受けている方は、自己判断で増やさないことです。タンパク質の摂りすぎがかえって体の負担になる場合があるため、必ず主治医や管理栄養士に相談してください。特に高齢者は腎機能が低下していることも多く、「体にいいから」と安易に量を増やすのは禁物です。
⚠️ 腎臓に持病がある方は自己判断で増やさない
腎臓病・透析中・食事指導を受けている方は、タンパク質の摂りすぎが負担になることがあります。量を増やす前に、必ず主治医や管理栄養士に相談してください。
一方で、大きな持病のない健康な高齢者であれば、食事の範囲でタンパク質を意識する分には、過度に心配する必要はありません。「摂りすぎたら怖い」と極端に控えるより、必要な量をきちんと満たすことのほうが、はるかに多くの高齢者にとって現実的な課題です。食事で足りない分を補助として補う——この基本を守れば、大きく外すことはありません。心配なときは、かかりつけの専門職に一度相談してみると安心です。
もうひとつ、プロテインを取り入れるなら、水分もしっかり摂ることを意識してください。タンパク質を代謝する際に体は水分を必要とするため、水分不足のまま量だけ増やすのは避けたいところです。また、いきなり大量に飲ませるのではなく、少量から始めて体調やお通じの様子を見ながら調整するのが安全です。高齢者の体は変化に敏感なので、「少しずつ、様子を見ながら」が基本になります。
👨⚕️ もくもくポイント
迷ったら「少量から、様子を見ながら」。そして腎臓など持病がある方は、始める前に必ず主治医か管理栄養士へ。安全第一で取り入れましょう。
まとめ
🌱 まとめ
運動しない高齢者にプロテインは意味があるか。答えは「意味はある。ただし目的が違う」です。運動する人は増やすため、動かない人は減らさない・守るため。床ずれ予防、免疫、体重維持、回復力——動かない人ほど、守るべきものがたくさんあります。
ただし、順番を間違えないでください。まず食事、プロテインはその補助です。栄養が足りなければ体は守れませんし、食べられるならまず食卓から。まずは今の食事にタンパク源がどれくらい入っているかを見て、足りなければ卵や豆腐、乳製品でひと工夫。それでもどうしても届かないときに、プロテインという選択肢を思い出してあげてください。順番さえ守れば、プロテインは動かないおじいちゃん・おばあちゃんの体を守る、心強い味方になってくれるはずです。ご家族の「食べる中身を少し変えてみよう」という一歩が、これからの毎日を支えていきます。
📚 参考文献

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