📋 この記事でわかること
- ✔ 多くの高齢者がタンパク質不足という現実と、その理由
- ✔ タンパク質が足りないと体に何が起きるのか
- ✔ プロテイン(粉)を検討する価値があるのはどんな人か
- ✔ 体重が減ってきた親御さんに、プロテインより先にやるべきこと
- ✔ 腎臓が心配な場合の注意点

父が「筋トレ用にプロテインを飲んでる」って言うんです。私も使っているので分けてあげようかと思うんですが、父に飲ませても大丈夫でしょうか?

その質問、訪問先でもよく受けます。結論から言うと「飲ませてはいけない」ものではありません。ただ、飲ませる前に確認しておきたいことがいくつかあります。順番に整理していきましょう。
私は訪問リハビリの現場で12年、これまで1万件以上のお宅にうかがってきました。ご家族がプロテインを気にされるとき、その多くは「食事」で解決できるか、あるいは「食事の見直しが先」というケースです。プロテインは便利な道具ですが、使いどころを間違えると的外れになってしまいます。まずは「そもそも必要なのか」というところから、一緒に見ていきましょう。
そもそも高齢者にプロテインは必要か

先に結論をお伝えします。多くの高齢者はタンパク質が不足しており、足りない分を補う手段としてプロテインには意味があります。ただし、あくまで食事が土台で、プロテインはそれを補助するもの。この順番を間違えないことが何より大切です。
高齢者に必要なタンパク質の量は、実は若い頃より多いことがわかっています。国際的なガイドラインでは、65歳以上は1日あたり体重1kgにつき1.0〜1.2gのタンパク質摂取が推奨されています(PROT-AGE 2013・ESPEN 2014より)。体重60kgの方なら1日60g以上が目安になります。日本の基準でも、65〜74歳の推奨量は男性60g・女性50gとされており、フレイル予防の観点からタンパク質摂取が重視されるようになりました(厚生労働省 食事摂取基準2025年版より)。
出典:Bauer J, et al. JAMDA. 2013(PROT-AGE Study Group)
ところが現実には、年齢を重ねると肉や魚をたくさん食べるのが難しくなり、知らないうちに不足しがちです。あっさりした食事を好むようになったり、量が食べられなくなったりするのは自然なことですが、その結果としてタンパク質が届いていない高齢者は少なくありません。だからこそ「足りない分を補う」という発想には、きちんとした根拠があるのです。
さらに高齢者には、若い頃と同じ量のタンパク質を摂っても筋肉が作られにくくなる、という体の変化もあります。同じ食事でも「効きにくく」なるため、意識して少し多めに摂ることが必要になるのです。この点も、高齢者ほどタンパク質を大切にしたい理由のひとつです。
子世代からよく受ける質問
冒頭のご家族のように、「自分が筋トレで飲んでいるプロテインを、親にも分けていいか」という相談は本当に多く受けます。これ自体は悪いことではありません。ただ、若い人が体づくりのために飲むプロテインと、高齢の親御さんに本当に必要なものは、目的が少し違います。若い世代は「増やす」ため、高齢者は「減らさない・保つ」ためです。この違いを整理しないまま渡してしまうと、せっかくの気づかいが遠回りになることもあります。
👨⚕️ もくもくポイント
若い人のプロテインは「増やす」ため、高齢の親御さんは「減らさない」ため。同じ粉でも目的が違うと知っておくだけで、渡し方が変わってきます。
タンパク質が足りないとどうなるか

ここで、タンパク質が不足するとどうなるのかを押さえておきましょう。実はこれが、プロテインを考える前提として一番大事な部分です。
タンパク質を含む栄養が不足した状態が続くと、体には「負の連鎖」が起こります。高齢者の低栄養は、まず体重減少や筋肉量の減少(サルコペニア)として表れ、これがフレイルの最初の、そして中核的な問題になります。さらに低栄養が進むと免疫力が落ちて感染症にかかりやすくなり、運動機能や身体機能が低下して、生活の質そのものが下がっていきます(健康長寿ネットより)。
出典:健康長寿ネット「フレイル・サルコペニア予防の視点からの栄養管理」
つまり、タンパク質不足は単に「筋肉がつきにくい」だけの話ではありません。筋肉が減る→動きにくくなる→活動量が減る→食欲も落ちてさらに食べなくなる、という悪循環を通じて、転倒や骨折、そして要介護のリスクへとつながっていきます。訪問の現場でも、「最近やせてきた」というご家族の一言の裏に、この連鎖が始まっていることは珍しくありません。だからこそ、早い段階で栄養を整えることに大きな意味があるのです。
ご家族から見て「前より小さくなった気がする」「服がゆるくなってきた」といった変化は、この連鎖のサインであることがあります。数字に表れる前の、こうした見た目の変化に早めに気づけると、対策も打ちやすくなります。
筋肉の減少(サルコペニア)と、それを防ぐための運動との関係については、こちらの記事(サルコペニアと自宅でできる筋トレ)でくわしく解説しています。
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プロテインを検討する価値があるのはこんな人
では、どんな人にプロテイン(粉)が向いているのでしょうか。ここが一番の判断ポイントです。カギは「カロリーは足りているのに、タンパク質だけが不足している」というタイプかどうかです。
具体的には、次のような親御さんが当てはまります。
✅ プロテインが向いている親御さんの例
- 食は細めだが、体重はある程度保てている
- 噛む力が落ちて、肉や魚が食べづらくなってきた(ただし飲み込みはスムーズにできる)
- 一人暮らしになり、料理をつくる回数が減ってしまった
こうした場合、ごはんやパンは食べられていても、肉・魚といったタンパク質源だけがピンポイントで足りない、という状態になりやすいです。食事量そのものは大きく減っていないので、そこに少量のプロテインを足してタンパク質だけを補うのは、とても理にかなった方法といえます。
また、日常的に運動やトレーニングを続けているのに、なかなか筋肉がつかない、という親御さんにも、プロテインを提案することがあります。体をよく動かす高齢者は、その分だけ多くのタンパク質(体重1kgあたり1.2〜1.5gほど)が必要になるため、食事だけでは追いつかないことがあるからです(PROT-AGE 2013より)。実際に、運動習慣のある方に少量のプロテインを足してもらったところ、少しずつ体が変わってきた、というケースもありました。
出典:Bauer J, et al. JAMDA. 2013(PROT-AGE Study Group)
⚠️ むせやすい親御さんには要注意
飲み込む力が落ちて「むせやすくなってきた」場合は例外です。プロテインのようなサラサラした液体は、むせや誤嚥(食べ物や飲み物が気管に入ってしまうこと)につながることがあるため、基本的にはおすすめしていません。この場合は、とろみやゼリータイプもある総合的な栄養補助ドリンク(メイバランスなど)や、医師から処方される医療用の栄養剤(エンシュアなど)のほうが、現実的で安全です。
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見極めのヒントは「体重が保てているかどうか」です。体重が大きく変わっていないのに、肉や魚だけを避けがちという場合は、このタイプに近いと考えてよいでしょう。判断に迷うときは、次の項目もあわせて確認してみてください。
なお、体重の変化や食事量の見極めがご家族だけでは難しいこともあります。低栄養を見落とすと危険なので、判断に迷うときは自己判断で進めず、ケアマネジャーや主治医に相談すると安心です。
「補助」であって「主役」ではない
とはいえ、大事なのはプロテインを主役にしないことです。まずは肉・魚・卵・大豆製品・乳製品といった食事からタンパク質を摂ることを基本に置き、それでもどうしても届かない分だけを補う。この立ち位置さえ守れば、プロテインは日々の食事を支えてくれる頼もしい道具になります。逆に「これさえ飲めば大丈夫」と食事の代わりにしてしまうと、かえって全体の栄養バランスが崩れてしまうこともあるので注意しましょう。
たとえば、朝食に卵や納豆を一品足す、味噌汁に豆腐を入れる、間食を甘いお菓子からヨーグルトやチーズに変える。こうした小さな工夫だけでも、タンパク質はぐっと摂りやすくなります。プロテインを考える前に、まずはこうした「食事でできること」から試してみるのがおすすめです。
目安として、卵1個で約6g、肉や魚は100gあたり約20gのタンパク質が摂れます。1日60gという目標に対して、こうした一品を毎食少しずつ積み重ねていけば、意外と食事だけでも届くものです。
👨⚕️ もくもくポイント
判断のカギは「体重が保てているか」です。体重は変わらないのに肉や魚だけ避けがちなら、プロテインの出番。体重ごと減っているなら、まず食事です。
体重が減ってきた・食事量が足りない人はプロテインより先にやること

一方で、プロテインの前に立ち止まってほしいタイプがあります。それは「体重が減ってきている」「食事量そのものが足りていない」親御さんです。
この場合、足りていないのはタンパク質だけではありません。エネルギー(カロリー)も含めて全体的に不足している状態なので、タンパク質の粉だけを足しても的外れになってしまいます。たとえるなら、ガソリンが空に近い車にオイルだけ足すようなもので、まず入れるべきは全体の燃料です。やるべきことは、何よりも食事全体の見直しです。
まずは食事、次に頼れる手段
食事を整えるといっても、毎食しっかり作るのはご家族にとっても大きな負担です。無理なく続けるために、次のような順番で考えるとわかりやすいでしょう。
・作るのが大変なら、栄養バランスの整った宅配弁当に頼る
・食が細くて量そのものが食べられないなら、総合的な栄養補助ドリンクを使う
プロテインは、あくまでタンパク質を「ピンポイントで」足すための粉です。食事量やカロリー自体が足りていない親御さんには、まず総合的な栄養補助ドリンクや食事の見直しのほうが向いています。ここを取り違えないことが、遠回りしないための大事なポイントです。
肉・魚・卵・大豆などタンパク質源を意識する
栄養バランスの整った食事を無理なく
総合的な栄養をドリンクで補う
土台が整ってからの最後の一手
いきなり粉から入るのではなく、この順番を思い出してみてください。プロテインの粉が登場するのは、土台が整い、なおかつタンパク質だけがもう少し欲しい、という段階です。
宅配弁当の選び方や栄養補助ドリンク(メイバランスなど)については、それぞれの記事でくわしく紹介していますので、あわせて参考にしてください。
👨⚕️ もくもくポイント
食事→宅配弁当→栄養補助ドリンク→プロテイン。この順番さえ覚えておけば、遠回りせずに親御さんの体を支えられます。
腎臓が心配な人への注意
最後に、安全のために必ずお伝えしたいことがあります。腎臓に関する注意です。ここはプロテインを考えるうえで、いちばん慎重になってほしいところです。
「タンパク質は腎臓に悪いのでは」と心配される方は多いのですが、これは正確ではありません。腎臓に持病がなければ、目安量のタンパク質を摂ることで腎機能が悪化するという確かな根拠は、今のところ確認されていません。問題になるのは、あくまで極端な過剰摂取を続けた場合です。適量であれば、過度に怖がる必要はありません。
⚠️ 腎臓に持病がある場合は必ず主治医へ
医師から腎機能の低下や腎臓病を指摘されている方は別です。重度の腎機能低下がある場合には、タンパク質を控える指導が必要になることがあります(PROT-AGE 2013より)。この場合は自己判断で増やさず、必ず主治医に相談してください。同じ「高齢者」でも、腎臓の状態によって答えが変わります。
出典:Bauer J, et al. JAMDA. 2013(PROT-AGE Study Group)
現場で気をつけていること
私自身、訪問先でご家族から「プロテインを飲ませたい」と相談を受けたときは、まずご本人の持病を確認するようにしています。腎臓の状態を知らないまま「いいですよ」と気軽に答えるのは、専門職として怖いからです。健康診断や普段の受診で、腎臓について何か言われていないか。まずは一度、そこを確認してみてください。
なお、腎臓以外にも糖尿病などで食事指導を受けている場合は、その指導が優先されます。持病のある親御さんほど、まずは主治医やケアマネジャーと共有したうえで取り入れるのが安心です。
👨⚕️ もくもくポイント
腎臓は「持病がなければ怖がりすぎない、あればしっかり守る」が基本です。自己判断でプロテインを増やす前に、健診結果や主治医の言葉を一度思い出してみてください。
訪問現場からのエピソード

📝 訪問現場より
ある80代の女性のお宅では、娘さんが「最近やせてきた母に、自分のプロテインを飲ませている」とのことでした。ところが体重は落ち続けていて、よく聞くと食事量そのものがかなり減り、ごはんもおかずも半分ほど残す状態。つまりタンパク質以前に、食べる量自体が足りていなかったのです。娘さんは良かれと思っていましたが、体が求めていたのは全体の栄養でした。
そこでプロテインはいったんお休みし、食べやすいおかずを少量ずつ増やし、負担の大きい調理は宅配弁当も取り入れました。数ヶ月後には体重の減少がぴたりと止まり、表情にも張りが戻っていました。プロテインが悪いのではなく、使う順番を間違えていただけ。順番さえ整えれば、体はちゃんと応えてくれると実感した一例です。
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まとめ
高齢の親御さんにプロテインが必要かどうかは、「食事で足りているか」で判断が分かれます。最後に要点を整理しておきましょう。
📝 まとめ
- ✅ 多くの高齢者はタンパク質不足なので、補う意味はある。ただし食事が第一
- ✅ 体重が保てていて、タンパク質だけが足りない人にはプロテインが向く
- ✅ 体重が減っている・食事量が足りない人は、まず食事の見直しや宅配弁当・栄養補助ドリンクが先
- ✅ 腎機能の低下や腎臓病を指摘されている人は、必ず主治医に相談する
プロテインは便利な道具ですが、万能薬ではありません。まず食事という土台をしっかり整えたうえで、足りない分を補う。この順番を守ることが、結果として親御さんの体を守る一番の近道になります。気になることがあれば、かかりつけの医師やケアマネジャーにも相談しながら、無理のない形で取り入れていきましょう。
なお、実際にプロテインを選ぶときの種類(ソイ・ホエイなどの違い)や、高齢者でも飲みやすい製品の選び方については、別の記事でくわしく紹介する予定です。あわせて参考にしてください。
📚 参考文献
- Bauer J, et al. Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: A position paper from the PROT-AGE Study Group. JAMDA. 2013;14(8):542-559. リンク
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」 リンク
- 健康長寿ネット「フレイル・サルコペニア予防の視点からの栄養管理」(長寿科学振興財団) リンク
- Deutz NE, et al. Protein intake and exercise for optimal muscle function with aging: Recommendations from the ESPEN Expert Group. Clinical Nutrition. 2014;33(6):929-936.


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