- ✔スライディング系グッズで介助の負担がどう変わるのか
- ✔シート・ボード・グローブ、それぞれの使い場面と選び方
- ✔訪問リハビリ12年のPTが実際に選んだおすすめ商品
「持ち上げない介護」が、介助者の体を守る
前回の記事でお伝えした「限界」の話
体重50kgの人を「持ち上げる」動作。一見、日常的に見えるこの介助が、介助者の腰椎にかける負荷はおよそ200〜400kg相当と言われています。
一度や二度なら耐えられる。でもそれが毎日、何年も続いたら——。
前回の記事では、正しい姿勢や介助の基本をお伝えしました。でも正直に言うと、「正しい姿勢」だけでは防ぎきれない負担があります。特にベッド上での体位変換や、ベッドから車椅子への移乗は、どんなに気をつけても体への負荷が大きい場面です。
「腰が痛くて、もう限界かもしれない」——そう感じているなら、それは体が出しているサインです。そのサインを無視し続けることが、介護の継続を一番難しくします。
👉 腰痛予防の基本姿勢については、【理学療法士が解説】在宅介護で腰を痛めないために をあわせてご覧ください。
スライディング系グッズで何が変わるのか
「持ち上げる」から「滑らせる」へ。
この発想の転換だけで、介助に必要な力は根本から変わります。
スライディング系グッズの仕組みはシンプルです。専用素材が摩擦を大幅に減らすことで、体を動かすのに必要な力が格段に小さくなります。たとえばスライディングシートを使うと、ベッド上での体位変換に必要な力が通常の1/3〜1/5程度になると言われています。
「道具に頼るのは申し訳ない」という気持ちはよくわかります。でも考えてみてください。道具を使うことで介護が5年長く続けられるなら、それはお父さんやお母さんにとっても、あなた自身にとっても、いい選択ではないでしょうか。
今回紹介するのは、訪問現場で12年間、実際に使い続けてきた3種類のスライディング系グッズです。
スライディングシート|ベッド上の介助を劇的に楽にする

どんな場面で使う?基本の使い方
ベッドで寝ている人は、気づかないうちに少しずつ足元にずり落ちてきます。「さっき上の方にいたのに、もう枕から頭が落ちそう」——そんな場面、心当たりはありませんか。
このずり落ちた体を頭側に引き上げる動作が、実は介助の中でも腰への負担が大きい場面のひとつです。布団やベッドシーツとの摩擦が大きいため、50〜60kgの体を動かすのに、介助者は全体重をかけるような力が必要になります。
ここでスライディングシートを使うと、状況が一変します。
✅ 使い方はシンプルです
- 1シートを二つ折りにして、患者さんの腰〜背中の下に差し込む
- 2シート同士の面が滑るため、体がスーッと動く
- 3引き上げが終わったら、シートを抜き取る
たったこれだけです。初めて使った家族の方はほぼ全員「え、こんなに軽いの?」と驚きます。力ではなく、摩擦をなくすという発想で介助が変わります。
足に少し力が入る方なら、シートを敷いた後に本人に膝を立ててもらい、自分の力で体を押し上げてもらいましょう。介助者は軽く支えるだけでOK。本人の力を活かしながら、介助者の負担も同時に減らせます。
SとMどちらを選ぶ?訪問現場での使い分け
サイズ選びに迷う方が多いので、現場での使い分けをそのままお伝えします。
✅ Sサイズ(70×73cm)がおすすめ
- ・一人で介助する場合
- ・上方への引き上げがメイン
- ・収納スペースが限られている
- ・まず試してみたい
✅ Mサイズ(120×73cm)がおすすめ
- ・体格がよい方の介助
- ・体位変換(左右の寝返り)も一緒にやりたい
- ・二人で介助する場合
迷ったらまずSサイズから試すのが現場でのおすすめです。小さい分取り回しやすく、引き出しにもしまいやすい。慣れてきたらMサイズを追加するという順番が、無駄なく使いこなせます。
商品紹介
トランスファーシート Sサイズ 70×73cm(ウィズ)
トランスファーシート Mサイズ 120×73cm(ウィズ)
スライディングボード|ベッド↔車椅子の移乗に

どんな場面で使う?基本の使い方
ベッドから車椅子へ、車椅子からトイレへ。この「乗り移り」の場面が、在宅介護の中で最も転倒リスクが高く、介助者の腰への負担も大きい瞬間のひとつです。
立ち上がる力が弱くなってきた方を、「せーの」で引き起こして移乗させる。その瞬間に介助者がぎっくり腰になった、という話は訪問先で何度も耳にしてきました。
スライディングボードは、この「立ち上がる」という動作そのものをなくします。
✅ 使い方の基本はこうです
- 1ベッドと車椅子の高さをできるだけ揃える
- 2ボードの片端をベッドに、もう片端を車椅子の座面に橋渡しするように置く
- 3ボードの上をお尻で滑るようにして移乗する
立ち上がらずに「橋を渡るように」移動できるので、転倒のリスクが大幅に下がります。介助者も持ち上げる必要がないため、腰への負担がほとんどありません。
介助する場合と自力で使う場合で長さが変わる
ボード選びで最初に決めることは、誰が主体で使うかです。
👤 介助者がメインで使う場合
→ 長めのボード(Bタイプ)
ボードが長い方が安定。ベッドと車椅子の距離が多少あっても橋渡しがしやすく、介助者が体を入れる余裕も生まれます。
🙋 本人が自力で使う場合
→ 短めのボード(スライディM)
腕の力がある程度残っている方なら自力で移乗できます。短いボードの方が取り回しやすく、一人で差し込みやすいサイズ感です。
💬 訪問現場のエピソード
その方は足の力がほとんどなく、立って移乗することが難しい状態でした。ただ、腕の力は残っていた。そこでリハビリの時間は、なるべく自分の足で立って車椅子に移る練習を続けました。「今持っている力を、できるだけ使い続けてほしい」——それがPTとしての本音です。
でも同時に、こうもお伝えしました。「疲れている夜の移乗は、必ずボードを使ってください」と。
道具を使うことは「諦め」ではありません。リハビリで今の力を維持しながら、疲れているときや安全が優先される場面では道具を使う。この使い分けが、在宅生活を長く続けるための賢い選択です。
商品紹介
モルテン イージーモーション Bタイプ(介助用・長め)
モルテン トランスファーボード スライディM(自力用・短め)
スライディンググローブ|小さいけど効果は大きい

シートやボードと組み合わせて使う
スライディンググローブは、3つの中で最も地味に見えて、実は毎日の介助で一番出番が多い道具です。
シートやボードは「大きく体を動かす場面」で使いますが、グローブはもっと細かい場面で活躍します。体位を整えるとき、少しだけ位置を直したいとき、衣類のシワを伸ばしたいとき。わざわざシートを敷くほどではないけど、手だけでは滑らない——そんな場面に、グローブをはめた手をサッと差し込むだけで解決します。
シートやボードと組み合わせて使うことで、一連の介助がよりスムーズになります。たとえばスライディングシートで上方に引き上げた後、体の向きを少し整えるときにグローブが活躍する、といった具合です。
「背抜き」って何?寝たきりの方に必須のひと手間
グローブの使い方の中で、特に覚えておいてほしいのが「背抜き」です。
⚠️ 注意が必要なこと
寝たきりの方や、ベッド上で長時間過ごす方は、体重で背中や腰の皮膚が圧迫され続けます。さらに体位を変えるとき、衣類がよれたまま皮膚が引っ張られることで、褥瘡(床ずれ)のリスクが高まります。
背抜きとは、体位変換や介助の後に、背中・腰・お尻の下に手を差し込んで、よれた衣類や皮膚のひきつれをリセットするひと手間です。
グローブをはめた手は滑りがいいので、体の下に差し込みやすく、衣類のシワをスッと伸ばせます。素手では皮膚を引っ張ってしまうこともありますが、グローブがあればその心配もありません。
体位変換をしたら、必ず背抜きをセットで行いましょう。背中・腰・お尻の下にグローブをはめた手を差し込んで、衣類のよれをリセットするだけ。たったこのひと手間が、褥瘡(床ずれ)の予防につながります。
訪問先の家族も使っている現場の声
💬 訪問先の家族も使っている現場の声
グローブを家族に勧めると、最初は「こんな小さいもので変わるの?」という顔をされます。でも一度使ってもらうと、ほぼ全員がリピートします。
ある訪問先のご家族は、最初はシートだけ使っていました。でもグローブを試してもらった日に「これ、もっと早く知りたかった」とおっしゃっていました。背抜きをするたびに手が引っかかって大変だったのが、グローブをはめるだけでスッと動くようになったと。
値段も手頃で、かさばらない。それでいて毎日の介助の質が変わる。コスパという意味では、3つの中で一番かもしれません。
商品紹介
移座えもんグローブ 黒 2枚入(モリトー)
まとめ:道具を味方につけて、介護を長く続けるために
3つのグッズ、どれから始める?
📋 今日お伝えした内容のまとめ
- ✨ 「持ち上げる」から「滑らせる」へ——この発想転換が腰を守る第一歩
- ✨ まず試すならスライディングシートSサイズから。毎日使えてコスパ◎
- ✨ 移乗が多くなってきたらスライディングボードを追加
- ✨ 背抜き・細かい介助にはスライディンググローブが活躍
- ✨ 全部一度に揃えなくてOK。一つずつ試しながら道具を味方にしよう
8記事目と合わせて読んでほしい理由
道具を使いこなすことと、正しい介助姿勢を身につけること。この2つは、どちらかだけでは不十分です。
スライディング系グッズは摩擦を減らしてくれますが、介助者の姿勢が崩れていれば腰への負担はゼロにはなりません。逆に、姿勢だけ気をつけていても、道具なしで体を持ち上げ続ければ限界がきます。
道具と姿勢、両方を味方につけること——それが、介護を長く安全に続けるための、一番現実的な答えだと私は思っています。
前回の記事では、腰痛予防の基本姿勢と3つの黄金ルールをお伝えしました。まだ読んでいない方は、ぜひこちらもあわせてご覧ください。
介護は長距離走です。今日の一工夫が、1年後・5年後のあなたの体を守ります。
道具を味方につけて、無理なく続けていきましょう。
道具で体を守りながら、心の疲れも大切にしてください
⚠️ ご注意
この記事は理学療法士の資格を持つ筆者が、一般的な情報提供を目的として執筆しています。
身体の状態や疾患によって対応が異なります。
実践される際は必ずかかりつけ医や担当のリハビリ専門職にご相談ください。


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